【2026年法改正直前】障害者雇用の優良認定制度拡大で変わる企業戦略――地方企業が今すぐ準備すべきこと
■ 障害者雇用が「義務」から「戦略」へ
2026年1月、厚生労働省の研究会が障害者雇用の優良認定制度を大企業にも拡大する報告書案を公表しました。これは単なる制度改正ではなく、企業の障害者雇用に対する姿勢そのものが問われる大きな転換点です。
2026年7月には民間企業の法定雇用率が2.5%から2.7%に引き上げられます。従業員数37.5人以上の企業が対象となり、これまで義務がなかった地方の中小企業にも影響が広がります。
しかし現場では、「本業と関連の薄い業務に障害者を配置し、法定雇用率だけを満たせばいい」という姿勢の企業も少なくありません。今回の優良認定制度の拡大は、こうした「数合わせ雇用」からの脱却を促し、障害者が「意欲的に働ける環境」を整備することの重要性を示しています。
本記事では、障害者雇用コンサルティングを専門とする社会保険労務士の視点から、地方企業が今すぐ取り組むべき準備と、法改正を「機会」に変えるための実践的なアプローチをお伝えします。
■ 2026年7月施行:法定雇用率2.7%引き上げの影響とは
法定雇用率引き上げで何が変わるのか
2026年7月1日から、民間企業の法定雇用率が現行の2.5%から2.7%に引き上げられます。これにより、従業員数37.5人以上の企業が障害者雇用の義務対象となります。
【具体例】
– 従業員50人の企業:1.35人 → 2人以上の雇用が必要
– 従業員100人の企業:2.5人 → 3人以上の雇用が必要
– 従業員200人の企業:5人 → 6人以上の雇用が必要
この変更により、これまで法定雇用率をギリギリ達成していた企業も、新たに1名以上の障害者を雇用する必要が生じるケースが増えます。
地方企業が直面する現実的な課題
地方企業の人事担当者の方々とお話しすると、以下のような課題をよく耳にします。
1. 障害者雇用のノウハウ不足
「どんな業務を任せればいいのかわからない」「合理的配慮の具体的な方法が不明」といった声が多く聞かれます。
2. 支援機関とのつながりの薄さ
都市部に比べて、地方では障害者就労支援機関や特例子会社の情報が限られており、採用ルートの確保が難しいケースがあります。
3. 職場の受け入れ体制の未整備
現場の従業員が障害者雇用に不安を感じていたり、管理職が適切なマネジメント方法を知らなかったりする場合があります。
4. 離職率の高さ
せっかく雇用しても、職場環境や業務内容のミスマッチから早期離職につながるケースも少なくありません。
■ 優良認定制度の拡大が示す「質」重視の雇用へのシフト
「数合わせ雇用」から「意欲的に働ける環境づくり」へ
厚生労働省が優良認定制度を大企業にも拡大する背景には、障害者雇用の「質」を向上させる狙いがあります。
現状、多くの企業では以下のような「数合わせ雇用」が行われています。
– 本業とは関係のない単純作業(シュレッダー、清掃のみなど)に従事させる
– 障害者専用の部署を設け、本社機能から切り離す
– キャリアアップの機会を提供しない
こうした雇用形態では、障害者本人のモチベーションが低下し、早期離職や職場の閉塞感を招きます。企業にとっても、採用コストの増加や職場の士気低下といったデメリットが生じます。
優良認定制度が評価するポイント
優良認定制度では、以下のような取り組みが評価されると考えられます。
1. 本業に関連する職域での雇用
企業のコア業務に障害者が参画し、価値を生み出している
2. 合理的配慮の実施
障害特性に応じた働きやすい環境を整備している
3. キャリア形成支援
障害者にも研修やスキルアップの機会を提供している
4. 職場定着率の高さ
長期的に安心して働ける環境が整っている
5. 経営層のコミットメント
経営者や役員が障害者雇用を経営戦略として位置づけている
■ 地方企業だからこそできる障害者雇用の「強み」
都市部にはない地方企業のアドバンテージ
私が多くの地方企業を支援する中で実感するのは、地方企業には都市部の大企業にはない独自の強みがあるということです。
1. 顔の見える関係性
従業員同士の距離が近く、障害者一人ひとりの特性や状況を把握しやすい環境があります。
2. 柔軟な働き方の設計
大企業のような硬直的な人事制度ではなく、個別の事情に応じた柔軟な勤務体系を構築しやすい特徴があります。
3. 地域資源の活用
地域の就労支援機関、特別支援学校、福祉事業所などとの連携がスムーズで、採用後のフォローアップ体制も構築しやすい環境です。
4. 経営者の意思決定スピード
経営者と現場の距離が近く、トップダウンで障害者雇用の方針を迅速に実行できる機動力があります。
成功事例:地方製造業A社の取り組み
私が支援した地方の製造業A社(従業員80名)では、以下のような取り組みで障害者雇用を成功させました。
課題: 法定雇用率未達成、障害者雇用のノウハウなし
施策:
1. 現場の業務を洗い出し、障害特性に合った職域を開発
2. 地域の就労支援機関と連携し、職場実習を実施
3. 全従業員向けに障害理解研修を実施
4. 支援機関のジョブコーチと連携した定着支援
結果:
– 知的障害者2名、精神障害者1名を雇用
– 3年間の定着率100%
– 工程改善が進み、全体の生産性が5%向上
– 従業員の障害理解が深まり、職場の雰囲気が向上
この事例からわかるのは、障害者雇用は「コスト」ではなく「投資」であり、適切な取り組みが企業全体にポジティブな影響を与えるということです。
■ 今すぐ始めるべき5つの準備ステップ
2026年7月の法改正まで、残り5ヶ月です。今から計画的に準備を進めれば、焦らず着実に体制を整えることができます。
ステップ1:現状の雇用状況を正確に把握する
まずは自社の現在の障害者雇用率を正確に算出しましょう。
– 常用雇用労働者数の確認
– 現在雇用している障害者の人数と障害種別
– 2026年7月以降に必要な雇用人数の算出
ステップ2:職域開発を行う
「障害者にどんな仕事を任せるか」を明確にすることが重要です。
– 現場の業務を棚卸しする
– 障害特性に合った業務を洗い出す
– 既存業務の切り出しや再編成を検討する
【ポイント】
本業に関連する業務から職域を開発することで、障害者が企業の価値創造に貢献できる環境を作れます。
ステップ3:地域の支援機関と連携する
障害者雇用は「一人で抱え込まない」ことが成功の鍵です。
– ハローワークの専門援助部門に相談
– 障害者就業・生活支援センターとの連携
– 地域の就労移行支援事業所との関係構築
– 特別支援学校との接点づくり
ステップ4:職場の受け入れ体制を整備する
障害者本人だけでなく、受け入れる側の準備も不可欠です。
– 経営層・管理職の理解促進
– 全従業員向けの障害理解研修
– 合理的配慮の具体的な方法の共有
– 相談窓口の設置
ステップ5:専門家のサポートを活用する
障害者雇用に精通した社会保険労務士やコンサルタントに相談することで、効率的に準備を進められます。
– 法令遵守のチェック
– 助成金の活用アドバイス
– 職域開発の支援
– 定着支援のフォローアップ
■ 障害者雇用を「経営戦略」に変えるマインドセット
CSRからCSVへ:共通価値の創造
障害者雇用を「法律で決められているから仕方なくやる」という義務感で捉えるのではなく、「企業価値を高める戦略」として位置づけることが重要です。
共通価値の創造)**とは、社会課題の解決と企業の利益を同時に実現する経営手法です。障害者雇用を通じて、以下のような価値を創造できます。
– 人材確保: 人手不足の時代に、新たな労働力を確保
– 生産性向上: 業務の見える化・標準化が進む
– イノベーション: 多様な視点が組織に新しい発想をもたらす
– 企業イメージ向上: ダイバーシティ経営が評価される
– 従業員エンゲージメント向上: 職場の一体感や働きがいが高まる
経営者のコミットメントが成功の鍵
障害者雇用を成功させるには、経営者や役員が明確なビジョンを示し、全社的に取り組むことが不可欠です。
「障害者雇用は人事部門の仕事」ではなく、「経営課題」として位置づけることで、組織全体が動き出します。
■ よくある質問(FAQ)
Q1. 法定雇用率を達成できなかった場合、どうなりますか?
A. 法定雇用率を達成できない企業は、不足1人あたり月額50,000円の障害者雇用納付金を納付する義務があります(従業員100人超の企業)。また、著しく雇用状況が悪い場合は、企業名が公表されるリスクもあります。
Q2. 障害者雇用に関する助成金はありますか?
A. はい、多数の助成金制度があります。代表的なものに「特定求職者雇用開発助成金」「障害者雇用安定助成金」などがあり、採用時や職場定着のための施設整備などに活用できます。
Q3. どの障害種別から雇用すべきですか?
A. 企業の業務内容や職場環境によって適した障害種別は異なります。まずは職域開発を行い、どんな業務があるかを明確にした上で、支援機関と相談しながら進めることをお勧めします。
Q4. 合理的配慮とは具体的に何をすればいいですか?
A. 合理的配慮とは、障害者が他の従業員と同じように働けるよう、個別の事情に応じて行う調整や支援のことです。例えば、車いす利用者のためのスロープ設置、聴覚障害者のための筆談対応、精神障害者のための短時間勤務などがあります。
Q5. 地方で障害者を採用するルートはありますか?
A. ハローワークの専門援助部門、障害者就業・生活支援センター、就労移行支援事業所、特別支援学校などが主な採用ルートです。まずは地域のハローワークに相談されることをお勧めします。
■ まとめ:2026年を「変革の年」に
2026年7月の法定雇用率引き上げと優良認定制度の拡大は、企業にとって大きなチャレンジであると同時に、組織を変革する絶好の機会でもあります。
「障害者雇用は難しい」「地方では採用できない」という固定観念を捨て、一歩踏み出してみてください。適切な準備と支援があれば、障害者も企業も共に成長できる環境は必ず作れます。
地方企業だからこそ持つ強み――顔の見える関係性、柔軟性、地域との連携――を活かし、持続可能で魅力的な職場を一緒に作っていきませんか?
障害者雇用は、企業の未来を創る投資です。今こそ、動き出すときです。
【参考記事】
– 朝日新聞デジタル「障害者雇用、大企業にも優良認定制度 厚労省の研究会が報告書案」
https://www.asahi.com/articles/ASV1Z3F4RV1ZULFA00ZM.html
【お問い合わせ】
障害者雇用に関するご相談は、障害者雇用コンサルティング専門の社会保険労務士までお気軽にお問い合わせください。
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