2026年7月の法定雇用率2.7%引き上げを前に―「数の達成」から「質の評価」へ転換する障害者雇用の新時代

厚生労働省の研究会が2026年1月30日に発表した報告書案により、障害者雇用において大きなパラダイムシフトが起きようとしています。これまで中小企業のみが対象だった「優良認定制度」が大企業にも拡大され、障害者雇用は「法定雇用率を満たせばよい」という数の時代から、「障害者が意欲的に働ける環境をいかに整備するか」という質の時代へと本格的に移行します。2026年7月には法定雇用率が2.7%に引き上げられることも決定しており、企業の人事担当者・経営層は今すぐ対応を始める必要があります。

【5つの重要ポイント】障害者雇用の質的転換で企業が今すぐ取り組むべきこと

1. 法定雇用率2.7%時代の到来―対象企業は従業員37.5人以上に拡大

2026年7月から民間企業の法定雇用率が現行の2.5%から2.7%へ引き上げられます。これにより、雇用義務の対象となる企業は従業員40人以上から37.5人以上へと拡大し、より多くの中小企業が障害者雇用に取り組む必要が生じます。さらに注目すべきは、従業員100人以下の企業にも納付金制度の拡大が検討されていることです。これまで「うちは対象外」と考えていた企業も、もはや他人事ではありません。現在の障害者雇用数は70万人を超え23年連続で増加していますが、実雇用率は2.41%と法定雇用率を下回っており、多くの企業が対応に苦慮している現状があります。人事担当者は早急に自社の雇用状況を確認し、2026年7月までの採用計画を立案する必要があります。

2. 「本業と無関係な業務」への配置は評価されない時代へ

厚労省の報告書案が指摘する最も重要な課題は、「本業と関わりの低い業務に従事させるケースが少なくない」という実態です。清掃業務や軽作業など、企業の中核業務と切り離された部署に障害者を配置し、形式的に法定雇用率を満たしている企業が多く見られます。しかし、これでは障害者が自身の能力を発揮できず、キャリア形成の機会も奪われてしまいます。新しい優良認定制度では、「障害者の能力発揮の促進」が評価基準となるため、本業に直結した業務への配置や、障害特性に合わせた合理的配慮の提供が求められます。社会保険労務士として多くの企業を支援してきた経験から申し上げると、障害者を単なる「雇用率達成のための数」ではなく「戦力」として位置づけ、本業の中で活躍できる業務を設計した企業ほど、定着率が高く生産性も向上しています。

3. 大企業も対象となる新たな優良認定制度―経営戦略としての障害者雇用

これまで「もにす認定」は従業員300人以下の中小企業のみが対象でしたが、今回の報告書案では大企業も含めた新たな優良認定制度の創設が提言されています。認定を受けた企業には、助成金の優遇措置や公共調達における加点評価などのインセンティブが付与される見込みです。つまり、障害者雇用は「コスト」や「義務」ではなく、企業価値を高める「経営戦略」として位置づけられるようになります。実際、ESG投資やダイバーシティ経営が重視される現代において、障害者雇用の質を高めることは企業のブランド価値向上に直結します。優秀な人材の採用においても、「多様性を尊重する企業風土」は大きな魅力となります。人事部門はこの制度改正をチャンスと捉え、経営層に対して障害者雇用を戦略的に推進する提案を行うべきです。

4. 約5社に1社が「目標達成困難」と回答―早期の体制整備が成否を分ける

最新の調査によれば、約22.4%の企業が「法定雇用率の目標達成が難しい」と回答しています。その主な理由は「適切な業務の切り出しができない」「受け入れ体制が整っていない」「障害特性への理解不足」などです。しかし、これらの課題は適切な準備と専門家のサポートがあれば十分に解決可能です。まず重要なのは、全社員への障害者雇用に関する理解促進研修の実施です。特に現場の管理職が障害特性を理解し、適切なコミュニケーションや指導方法を学ぶことが定着率向上の鍵となります。次に、ジョブコーチや就労支援機関との連携体制を構築することです。外部の専門家の支援を受けることで、採用から定着まで一貫したサポートが可能になります。2026年7月まで残り5ヶ月。今から準備を始めれば、質の高い障害者雇用を実現できる十分な時間があります。

5. 「質の評価」時代に求められる合理的配慮と職場環境整備

障害者雇用における「質」とは、具体的には以下の要素が評価されます。第一に、障害特性に応じた合理的配慮の提供です。これには物理的なバリアフリー化だけでなく、業務指示の明確化、柔軟な勤務時間の設定、ICTツールの活用などが含まれます。第二に、キャリア形成の機会提供です。障害者にも昇進や昇給の道を開き、長期的な成長を支援する仕組みが必要です。第三に、職場全体のインクルーシブな文化醸成です。障害の有無にかかわらず、すべての社員が互いを尊重し協力し合える職場環境を作ることが、最も重要な「質」の指標となります。私が支援してきた企業の中で、障害者雇用を通じて職場全体のコミュニケーションが活性化し、チームワークが向上した事例は数多くあります。障害者雇用は、組織全体の成長機会なのです。

【まとめ】2026年は障害者雇用の転換点―今こそ戦略的な取り組みを

2026年7月の法定雇用率2.7%引き上げと優良認定制度の拡大は、障害者雇用における大きな転換点です。「数を満たせばよい」という消極的な姿勢から、「質を高め企業価値を向上させる」という積極的な戦略へのシフトが求められています。今すぐ自社の障害者雇用の現状を見直し、本業に直結した業務設計、受け入れ体制の整備、合理的配慮の充実に取り組んでください。必要に応じて、障害者雇用に精通した社会保険労務士など専門家のサポートを受けることも有効です。障害者雇用の質的向上は、法令遵守を超えて、企業の持続的成長と社会的責任を果たすための重要な経営課題なのです。