障害者雇用2.7%時代の本質:「数合わせ」から脱却できない企業が見落とす構造設計の重要性

パーソルダイバース調査が浮き彫りにした日本企業の構造的課題

2026年2月、パーソルダイバースが公表した「企業の障害者採用に関する実態・意識調査」は、日本企業が障害者雇用において抱える本質的な課題を明確に示すものとなった。

調査対象は障害者採用担当者501名。そこから見えてきたのは、2026年7月に迫る法定雇用率2.7%引き上げに対する企業の危機感と、それに対応するための構造が整っていない現実だった。

52.6%が「達成困難」、それでも75.8%が採用拡大を望む矛盾

調査結果で最も印象的だったのは、企業が直面する根本的な矛盾である。

現在の法定雇用率2.5%を達成している企業は52.7%。そして2026年7月に引き上げられる2.7%について、達成を「困難」または「やや困難」とする企業が52.6%に上る。

一方で、障害者採用を「拡大したい」または「できれば拡大したい」と答えた企業は合計75.8%に達している。

この数字が示すのは何か。企業は障害者雇用の必要性を理解し、意欲も持っている。だが、それを実現するための「構造」が整っていないのだ。

企業が求める人材像と障害者の志向性に約20%のギャップ

調査では、企業が求める人材の志向性についても明らかになった。

最も多かったのは「安定・定着志向」で45.1%。「成長・活躍志向」を求める企業は18.2%に留まり、その中間の「バランス志向」が36.7%だった。

一方、過去に実施された障害者側の志向性調査では、「成長・活躍志向」を持つ人が38.1%存在する。ここに約20%のギャップがあるのだ。

私はこのギャップを「企業の構造設計不足」の表れと見る。

企業が「安定・定着志向」の人材を求めるのは、受け入れ体制が整っていないからだ。成長支援やキャリア形成の仕組みがないまま、意欲の高い人材を受け入れても対応できない。だから、「おとなしく長く働いてくれる人」を求めてしまう。

しかし、これは長期的には機能しない。なぜなら、人は成長の道筋が見えない環境では定着しないからだ。

採用後の成長支援体制が20%台という致命的な現実

調査で最も深刻だと感じたのは、採用後の支援体制に関するデータだ。

障害者採用を進める上での課題として、「社内理解と受け入れ体制の構築」が74.5%で最多。続いて「母集団の形成」「選考時の見極め」「採用後のミスマッチ」と、採用時の課題が並ぶ。

一方で、「評価や処遇・待遇の見直し」「障害のある社員のキャリア形成」を課題と認識している企業は20%台に留まっている。

さらに、実際に実施している取り組みを見ても、「キャリアパスの説明」は25.9%、「成長支援制度の提示」は18.4%と低い。

つまり、企業は「採用すること」には関心があるが、「採用した後にどう育てるか」「どうキャリアを描いてもらうか」という長期視点が欠けているのだ。

これでは、せっかく採用しても定着しない。意欲のある人材ほど、成長の機会がない環境から離れていく。

障害者雇用の本質は「福祉」ではなく「経営戦略としての構造設計」

私は人工透析患者として10年間勤務した経験を持つ。その経験から言えるのは、障害者雇用で本当に必要なのは「優しさ」や「配慮」ではなく、「回復可能性を組み込んだ業務設計」だということだ。

体調が変動する。予期せぬ通院が必要になる。それでも業務が回る仕組みがあれば、本人も周囲も安心して働ける。

記事中でパーソルダイバースの田村氏が指摘する「障害種別による先入観をなくし、業務をプロセス分解する」という視点は正しい。だが、それだけでは不十分だ。

分解した業務に対して、以下の3つを組み込む必要がある。

1. 誰が休んでも回る体制

業務を属人化させず、複数人で対応できる体制を作る。障害者に限らず、誰が突然休んでも業務が止まらない設計が必要だ。

2. 成果を可視化する仕組み

「頑張っている」「努力している」ではなく、成果を客観的に測れる指標を設定する。これがあって初めて、公正な評価とキャリア形成が可能になる。

3. 段階的に責任を増やせる設計

最初から高い成果を求めず、段階的にステップアップできる道筋を用意する。小さな成功体験の積み重ねが、本人の自信と周囲の信頼を生む。

こうした構造があって初めて、障害者雇用は「戦力化」される。

2026年7月まで残り5ヶ月:今すべきは「未来に耐える構造」の設計

法定雇用率は今後も上昇し続ける。2026年の2.7%で終わりではない。2030年には3.0%を超える可能性も十分にある。

そうした未来を見据えたとき、今、目先の「数合わせ」で対応する企業と、今のうちに「戦力化の構造」を設計する企業では、5年後、10年後の競争力に大きな差が生まれる。

私が外部CHROとして企業支援を行う際、常に強調するのは「制度は道具である」という視点だ。

障害者雇用促進法は、企業に数値目標を課す。だが、その数値をどう達成するか、どんな組織を作るかは企業の自由だ。制度を「やらされるもの」と捉えるか、「組織を強くする機会」と捉えるか。この認識の差が、結果を大きく左右する。

成功している企業の共通点:「できない点」ではなく「どうすればできるか」を考える風土

調査記事の最後で、田村氏は成功している企業の特徴をこう述べている。

「『できない点』を見るのではなく、『どうすればできるようになるか』を前向きに考えるコミュニケーションの風土が根付いている」

これは障害者雇用に限った話ではない。少子高齢化で労働力が減少する中、多様な人材を受け入れ、それぞれの強みを活かせる企業だけが生き残る。

障害という大きなバイアスを取り払い、個々の特徴や強みに目を向け、対話と工夫を重ねる。こうした積み重ねが、結果として企業価値の向上につながる。

「未来耐久性」を持つ障害者雇用の構造とは

私の思想の核にあるのは「未来耐久性」という考え方だ。

今の合意や合法性、周囲の空気よりも、「この判断は将来に耐えるか」「長期的に持続可能か」を最上位の基準とする。

障害者雇用においても同じだ。

今、数を揃えることだけを考えて採用しても、3年後、5年後にその人たちが定着し、成長し、貢献している姿が描けるか。描けないなら、その採用は未来に耐えない。

逆に、今は時間とコストがかかっても、業務設計を見直し、評価制度を整え、キャリアパスを明示する。そうした構造を作れば、それは10年後も機能し続ける。

これが「未来に耐える選択」だ。

最後に:障害者雇用は「結果責任を引き受ける覚悟」の問題

障害者雇用を「義務だから仕方なく」「法令順守のため」と捉える企業は、今後、確実に行き詰まる。

一方で、「経営戦略として」「組織を強くする機会として」捉え、構造設計に本気で取り組む企業は、人材不足時代の競争を勝ち抜く。

私は社会保険労務士として、また障害者雇用戦略アドバイザーとして、現場に寄り添いながらこの構造設計を支援している。

理想論ではなく、現実を見据えた設計。善意に頼らず、制度で安全を担保する仕組み。嫌われることを恐れず、長期的に壊れない選択を取る覚悟。

これらすべてが揃って初めて、障害者雇用は「戦力化」され、企業の競争力となる。

2026年7月まで、あと5ヶ月。今こそ、未来に耐える構造を設計するときだ。

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