米国調査が警告:DEI後退で従業員の43%が「退職する」――障害者雇用を含むダイバーシティ推進が人材戦略の要となる時代

「障害者雇用は本当に会社の役に立つのか?」
「ダイバーシティ推進にコストをかけるだけの価値はあるのか?」

企業の人事担当者や経営層の方から、こうした率直な疑問を投げかけられることがあります。

法定雇用率の達成、合理的配慮の提供、女性活躍推進――これらは「やらなければならないこと」として捉えられがちですが、果たして企業にとって本当にメリットがあるのでしょうか?

2025年9月、米Forbesが報じた大規模調査は、この問いに対する明確な答えを示しました。

従業員の76%が「DEIを支援し続ける企業に長期的に働き続けたい」と回答し、43%が「DEIをやめたら退職する」と答えたのです。

さらに、DEIを縮小・廃止した企業の37%が従業員のモラール低下を経験し、3社に1社がプログラムを再導入しています。

つまり、DEI(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)への取り組みは、もはや「社会貢献」や「義務対応」ではなく、人材の採用・定着を左右する、経営戦略の中核なのです。

今回は、この調査結果を詳しく読み解きながら、障害者雇用を含むDEI推進が、日本企業の人事戦略においてなぜ重要なのかを、社会保険労務士の視点から解説します。

1. 調査の概要――現場で働く従業員のリアルな声

今回ご紹介するのは、2025年6月に発表された、米国の非営利団体Catalyst(キャタリスト)と、法律研究機関**メルツァーセンター**が共同で実施した大規模調査です。

▼ 調査対象
– 従業員1,250名(従業員500名以上、DEIプログラムを持つ米国企業)
– C-suite幹部1,000名
– 法務責任者250名
– 調査期間:2025年1月20日〜2月11日

この調査の最大の特徴は、実際にDEIプログラムがある企業で働く従業員を対象にしたことです。

つまり、SNSや報道を通じた漠然としたイメージではなく、職場で実際にDEIを体験した人々の生の声を集めたのです。

調査を主導したグラスゴー氏(メルツァーセンター所長)は、こう語っています。

「私が知りたかったのは、DEIという言葉をSNSのミームや活動家の主張でしか知らない人々の意見ではなく、**実際の職場でDEIプログラムがどう機能しているか**でした」

2. 調査結果①:従業員の76%が「DEI支援企業に長く働きたい」

調査の核心となる結果は、以下の通りです。

✅ 76%の従業員が「DEIを支援し続ける企業に長期的に働き続けたい」と回答
✅ 43%の従業員が「DEIをやめたら退職する」と回答

さらに、若い世代ではこの傾向が顕著です。

– ミレニアル世代:78%が「DEI支援企業に長く働きたい」、53%が「DEI支援しない企業には応募しない」
– Z世代:86%が「DEI支援企業に長く働きたい」、61%が「DEI支援しない企業には応募しない」

つまり、DEIへの姿勢が、採用・定着の成否を分ける時代になっているのです。

3. 調査結果②:DEI支持は世代・性別・人種を超えて広範囲

「DEIは若い世代や特定の属性の人だけが支持しているのでは?」という疑問があるかもしれません。

しかし調査結果は、そうした見方を覆します。

▼ 世代別のDEI支持率(「非常に価値がある」または「ある程度価値がある」)
– Z世代:93%
– ミレニアル世代:94%
– X世代:86%
– ベビーブーマー世代:73%

若い世代ほど支持率は高いものの、すべての世代で7割以上が支持しています。

▼ 性別によるDEI支持率
– 女性:91%
– 男性:88%

性別による差はほとんどありません。

▼ 人種・民族別のDEI支持率
– 黒人:96%
– 先住民:94%
– ラテン系:91%
– 中東・北アフリカ系:89%
– アジア系:88%
– 白人:87%
– 多民族・多人種:87%

特に注目すべきは、白人従業員の87%がDEIを支持していることです。

「DEIは白人男性を不利にする逆差別だ」という批判がありますが、現場で働く白人従業員の9割近くが「DEIは価値がある」と答えているのです。

Catalystのポラック氏は、こう述べています。

「私たちのデータは、DEIが『全員にとって価値がある』ことを示しています。白人従業員や男性従業員の支持率がそれぞれ87%、88%であることは、『DEIは特定の人だけを利する』という神話を打ち砕くものです」

4. 調査結果③:どんなDEIプログラムが支持されているか?

調査では、具体的なDEI施策に対する従業員の支持率も明らかになりました。

▼ 高支持率のDEI施策
– 社員リソースグループ(ERG)の設置:93%
– バイアス・アライシップ・インクルージョンに関する研修:88%
– プライド月間、黒人歴史月間などの祝賀イベント:83%
– 授乳室、保育施設、障害者向けアクセシビリティの提供:90%以上
– 多様性採用目標の設定:86%
– DEI目標達成に対する報酬・インセンティブ:79%
– マイノリティグループに焦点を当てた採用活動:84%
– インターンシップ、メンターシップ、リーダーシップ研修:90%
– 歴史的黒人大学や女子大などへの積極的な採用活動:86%

これらの施策は、いずれも8割以上の従業員が「価値がある」と評価しています。

日本でいえば、障害者雇用、育児・介護との両立支援、女性管理職育成プログラム、LGBTQ+への配慮などが該当します。

5. DEI後退のリスク――実際に起きていること

では、DEIから後退した企業には何が起きたのでしょうか?

別の調査(Resume Templates、2025年4〜5月実施)によると、過去6ヶ月でDEIを縮小・廃止した企業750社のうち、

– 37%が従業員のモラール低下を経験
– 33%が多様な人材の採用困難を報告
– 3社に1社がDEIプログラムを再導入

つまり、短期的なコスト削減を狙ってDEIを縮小したものの、人材流出・採用難というより大きなコストを招き、結局プログラムを復活させざるを得なくなったのです。

Catalyst/メルツァー調査の研究者たちは、こう結論づけています。

「企業は、DEIプログラムから後退すれば、人材流出の脅威に直面する。従業員が退職するにせよ、エンゲージメントを失うにせよ、企業は大多数の労働者を遠ざけるリスクを冒すことになる」

6. 経営層もDEIの効果を実感している

この調査では、C-suite幹部と法務責任者にも意見を求めました。

結果、

– C-suite幹部の84%が「DEIは人材の採用・定着にポジティブな影響を与えている」と回答
– 法務責任者の83%が同様に回答

つまり、現場の従業員だけでなく、経営層もDEIの効果を実感しているのです。

研究者のポラック氏は、こう述べています。

「従業員の幅広い支持とリーダーシップの認識が一致していることは、非常に心強い。これは、多様な人材を増やし、包摂的な文化を育み、公正なシステムを構築するアプローチが、**価値があり、評価されている**ことを明確にしている」

7. 日本企業への示唆――障害者雇用はDEI戦略の柱

では、この調査結果は日本企業にどう関わってくるのでしょうか?

▼ 日本でも進むDEI関連制度
– 障害者雇用率の段階的引き上げ(2024年4月:2.5%、2026年7月:2.7%)
– 合理的配慮の提供義務化(2024年4月〜)
– 女性活躍推進法に基づく情報開示
– 育児・介護休業法の改正
– パワハラ防止法の施行

これらは単なる「法令遵守」ではなく、人材の採用・定着・エンゲージメント向上を左右する経営戦略として捉えるべきです。

▼ 障害者雇用がもたらす効果
私が障害者雇用コンサルティングの現場で実感するのは、障害者雇用に積極的な企業ほど、

– 従業員全体の働きやすさが向上する
– マネジメント力が強化される
– 組織の柔軟性・適応力が高まる
– 採用ブランディングで優位に立つ

ということです。

障害者への合理的配慮(例:時短勤務、リモートワーク、業務の細分化)は、育児・介護中の社員、持病のある社員、高齢社員にとっても働きやすい環境を作ります。

つまり、障害者雇用は、すべての社員が活躍できる組織づくりの起点なのです。

8. 社労士として企業に伝えたいこと

私は、障害者雇用コンサルティングを専門とする社会保険労務士として、日々、企業の皆さまと向き合っています。

その中で強く感じるのは、「障害者雇用=義務だから仕方なくやる」という発想からの脱却が、最も重要だということです。

今回ご紹介した調査は、DEIへの取り組みが、

✅ 採用競争力の強化
✅ 従業員エンゲージメントの向上
✅ 離職率の低下
✅ 企業ブランド価値の向上

に直結することを、データで明確に示しています。

逆に、DEIから後退すれば、優秀な人材が離れ、採用難に直面し、結局プログラムを再導入せざるを得なくなるのです。

9. まとめ――DEIは「やらなければ人材を失う」時代へ

米国の調査が示したのは、DEIへの取り組みが、もはや「やった方がいい」施策ではなく、「やらなければ人材を失う」経営リスクマネジメントの一部だということです。

日本でも、障害者雇用率の引き上げ、合理的配慮の義務化、女性活躍推進など、DEI関連施策が次々と制度化されています。

これらを「コスト」として捉えるのではなく、人材戦略の柱として位置づけることが、これからの企業経営に不可欠です。

もし貴社が、

– 障害者雇用に課題を感じている
– 合理的配慮の具体的な進め方が分からない
– 従業員のエンゲージメントを高めたい
– 採用競争力を強化したい
– DEIを経営戦略に組み込みたい

とお考えなら、ぜひ一度ご相談ください。

世界は動いています。そして、日本企業もこの潮流に乗り遅れるわけにはいきません。

障害者雇用を含むDEIの推進は、企業の未来を左右する、最重要の経営課題なのです。

【参考記事】
Forbes(2025年9月3日)
“Most Employees Support DEI, Revealing Talent Risk From DEI Retreat”
https://www.forbes.com/sites/michelletravis/2025/09/03/employees-widely-support-dei-revealing-talent-risk-from-dei-retreat/

【この記事を書いた人】
障害者雇用コンサルティング専門 社会保険労務士
企業の障害者雇用推進、合理的配慮の設計、職場定着支援を専門としています。法令遵守にとどまらず、障害者雇用を企業成長の原動力に変えるサポートを行っています。

動画も公開しています。
企業の「困った」を解決!障害者雇用サポート塾
https://youtube.com/channel/UC4CPSnfSxvaVCEA902K9gfQ?si=NCauCnBZAPc7U-Fh