障害者雇用で「年収1千万円プレーヤー」を生み出すEY Japanの戦略——ニューロダイバーシティを経営資源に変える構造設計の本質

EY Japanが示した「戦力化」の具体的成果

共同通信が報じたEY Japanの取り組みが、大きな注目を集めています。

EY Japanは2022年6月、発達障害のある人材を採用する専門部署「DAC(Diverse Abilities Center)」を立ち上げました。そして、わずか4年弱で、DACのメンバーは他社にヘッドハンティングされ、社内では他部署に「引き抜かれる」ほどの高評価を得ています。

リーダーの加藤喜久さんは「DACから年収1千万円稼ぐプレーヤーを出す」と明言しています。これは、障害者雇用を「福祉」ではなく「戦力化」「キャリア形成」として捉えている証拠です。

私が10年以上にわたり一貫して伝えてきたことと、完全に重なります。障害者雇用は、福祉ではありません。制度対応でもありません。経営戦略そのものです。

本記事では、EY JapanのDAC成功事例をもとに、ニューロダイバーシティを経営資源に変える構造設計の本質を、私の経験と思想を交えて解説します。

参考記事: [共同通信「ニューロダイバーシティ浸透 EY、人材の多様性の幅を拡大」](https://www.kyodo.co.jp/news/2026-02-20_3993377/)

1. EY Japanの「DAC」が示す戦力化の3つの成功要因

・ 成功要因1:「単純作業はやらない」という明確な覚悟

加藤さんは「初めから単純作業はやらないと決めていた」と語っています。

この覚悟が、DACの成功を決定づけました。形だけの雇用、人数合わせの雇用では、人材は育ちません。本気で戦力化を目指すなら、最初から高い目標を設定し、そこに向けた構造を作る必要があります。

私が支援してきた企業でも、「障害者には単純作業しかできない」という思い込みを持つ担当者は少なくありません。しかし、それは構造設計の問題であり、人材の問題ではありません。

業務を分解し、標準化し、適切な支援環境を整えれば、障害者は高度な業務を遂行できます。EYのデザイナーが動画制作やアニメーション制作に挑戦し、海外のEYから依頼が来るまでに成長したのは、その証拠です。

・ 成功要因2:成果物を見せて「何ができるか」を具体化する戦略

立ち上げ当初3カ月間、DACには社内から仕事の発注がありませんでした。

しかし、加藤さんは作戦を変え、DACのメンバーが実際に制作した成果物(イラストやデータ分析資料など)を見せて「こんなこと、あんなことができます」と社内の他部署にアピールしました。すると、仕事の注文が次々と入るようになったのです。

これは、私が現場で何度も目にしてきた光景です。人は「見えないもの」を信じられません。「障害者に何ができるかイメージできない」企業がほとんどです。

だからこそ、実績を見せることが重要です。思想は実績によってのみ語る資格があります。抽象的な理念や善意ではなく、具体的な成果物が人を動かすのです。

・ 成功要因3:「部署が不要になることが理想」という長期視点

加藤さんは「DACという部署がなくてもメンバーはEY Japan内で普通に活躍している。これがDACを作った私の追求する理想です」と語っています。

この視点が極めて重要です。特例子会社や専門部署は、「隔離の場」ではなく「マネジメントの実験場」であるべきです。そこで蓄積したノウハウを組織全体に還元する——これが戦略的な障害者雇用の本質です。

私が重視するのは、「未来耐久性」という視点です。今の合法性や空気感で判断するのではなく、10年後に耐える組織をどう設計するか。それが経営者の責任です。

DACが不要になる——それは、組織全体が多様性を受け入れ、一人ひとりの特性を活かすマネジメントが標準化されたことを意味します。これこそが、未来に耐える組織の姿です。

2. ニューロダイバーシティを経営戦略として設計する3つの視点

・ 視点1:業務の可視化と特性マッチングの仕組み化

ニューロダイバーシティとは「個人のさまざまな特性の違いを多様性と捉えて尊重し、発達障害のある人の能力を社会に生かそう」という考え方です。

ここで重要なのは、「何ができるか」ではなく「どう活かすか」という視点です。障害者の特性を理解し、それを業務に結びつける仕組みを作ることが、戦力化の本質です。

EYでは、デザインチームが動画制作やアニメーションに挑戦し、リサーチチームが簿記2級の勉強を始めるなど、新たなスキル獲得に貪欲です。これは、「この人には何ができるか」を探すのではなく、「この業務にはどんな特性が必要か」を分解し、そこに人材を配置する構造設計の成果です。

・ 視点2:AIを活用した支援環境の構築

加藤さんは、AIが発達障害のある人の活躍をさらに促進する強力な手段になると指摘しています。

予定管理のリマインダー機能、会議の文字起こし・要約機能、文章を相手に伝わりやすく書き換える機能——これらのAIツールは、発達障害者の「苦手」をカバーし、「得意」を最大化します。

重要なのは、これらの支援はすべての人材にとっても有効だということです。AIを活用した支援環境の構築は、障害者雇用だけでなく、組織全体の生産性向上に直結します。

私が一貫して伝えているのは、「人の善意や感情を前提にするな」ということです。善意に頼った障害者雇用は、担当者が変わった瞬間に崩壊します。構造と制度設計で安全と回復を担保する——これが、未来に耐える組織を作る唯一の方法です。

・ 視点3:キャリア形成を前提とした「投資」としての位置づけ

DACのメンバーは当初有期契約で、3年以内に正社員になることが期待されています。そして、実際にDACから他部署に移った正社員が5人、他社にヘッドハンティングされたデザイナーもいます。

これは、障害者雇用を「コスト」ではなく「投資」として位置づけている証拠です。業務の可視化・標準化、職域開拓、マネジメント手法の蓄積——これらはすべて、組織の未来耐久性を高める投資です。

私が支援してきた企業でも、障害者雇用を投資として捉えた企業は、確実に成果を上げています。

3. 「結果責任倫理」と「嫌われる覚悟」——戦力化を実現するリーダーシップ

・ 立ち上げ当初の3カ月間、仕事がなかった「生みの苦しみ」

加藤さんは「DACは22年6月、22人でスタートしましたが、当初の3カ月間、仕事の発注はありませんでした」と振り返っています。

これは、現場の抵抗、理解不足、イメージ不足が原因です。多くの企業は「障害者に何ができるか」を知らないのです。

ここで重要なのは、加藤さんが諦めなかったことです。短期的な称賛より、長期的に壊れない選択を取ることが責任です。私が重視する「結果責任倫理」とは、まさにこのことです。

善悪はルールではなく、「結果責任を引き受けられる覚悟の量」で測られます。違法か合法かではなく、是正ルートと意味づけが描けるかが重要です。

・ 「単純作業はやらない」という決断に必要な覚悟

加藤さんが「初めから単純作業はやらないと決めていた」という決断は、現場から反発される可能性があります。

「できない理由」を並べる担当者、「福祉でしょ」と軽視する管理職——そうした抵抗に直面することは避けられません。

しかし、嫌われる覚悟を持つことも、専門家の重要な機能です。私は、結果責任を引き受けられる覚悟の量で、善悪が測られると考えています。

加藤さんは、その覚悟を持ち、実行し、成果を出しました。これが、戦力化を実現するリーダーシップです。

4. 改正障害者差別解消法と「合理的配慮」の本質

・ 2024年4月から義務化された「合理的配慮の提供」

記事では、改正障害者差別解消法で2024年4月1日から障害のある人への「合理的配慮の提供」が事業者に義務付けられたことが触れられています。

この法改正を受け、「参考にしたい」と発達障害者らの採用を検討する企業からの問い合わせがEYに増えているといいます。

しかし、重要なのは法律を守ることではありません。法律は道具です。制度は道具です。それを使って、どう組織を設計するかが本質です。

・ 「合理的配慮」は特別なことではない

加藤さんは「一人一人の特性に配慮して能力を発揮してもらうことは企業内の各種のリーダーには当然求められることだと思います。考えてみれば私はDACで当たり前のことをやっただけです」と語っています。

この視点が極めて重要です。合理的配慮は、障害者に対する特別な対応ではありません。すべての人材に対して、一人ひとりの特性を理解し、能力を発揮できる環境を整える——これは、マネジメントの基本です。

私が現場で一貫して伝えているのは、障害者雇用を通じて組織全体のマネジメント力が向上するということです。障害者雇用は、組織の未来耐久性を測る試金石なのです。

5. 実務担当者が今すぐ取り組むべき3つのアクション

・ アクション1:「単純作業はやらない」という覚悟を持つ

まず取り組むべきは、「障害者には単純作業」という思い込みを捨てることです。

EYのように、最初から高い目標を設定し、そこに向けた構造を作る。これが、戦力化の第一歩です。

・ アクション2:成果物を見せて社内の理解を促進する

「障害者に何ができるか」を言葉で説明しても、多くの人はイメージできません。

具体的な成果物を見せることで、理解は一気に進みます。実績を積み重ね、それを社内に発信する——これが、職域開拓の仕組み化につながります。

・ アクション3:AIを活用した支援環境を構築する

AIのリマインダー機能、文字起こし機能、文章書き換え機能——これらは、発達障害者の活躍を促進するだけでなく、組織全体の生産性向上に直結します。

構造と制度設計で安全と回復を担保する——これが、未来に耐える組織を作る唯一の方法です。

〇障害者雇用を正しく設計できる会社だけが、これからの人材リスクに勝てる

EY JapanのDAC成功事例は、障害者雇用が「制度対応」から「経営戦略」へとシフトする時代の到来を明確に示しました。

私が一貫して伝えてきたことは、まさにこれです。障害者雇用を正しく設計できる会社だけが、これからの人材リスクに勝てる。

未来に耐える選択を、今、取るべきです。

人の善意や感情を前提にせず、構造と制度設計で安全と回復を担保する。短期的な称賛より、長期的に壊れない選択を取る。嫌われ役を引き受けることも、専門家の重要な機能である。

これが、私の思想であり、実践です。

EYの加藤さんが「DACから年収1千万円稼ぐプレーヤーを出す」と明言し、実際にヘッドハンティングされる人材を輩出している事実は、障害者雇用が「投資」であることを証明しています。

もし、あなたの組織が障害者雇用を本気で戦力化したいと考えているなら、まずは「単純作業はやらない」という覚悟を持ってください。そして、成果物を見せることで社内の理解を促進し、AIを活用した支援環境を構築してください。

未来は、今の選択で決まります。

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【執筆者プロフィール】
若林 忠旨
社会保険労務士法人東京中央エルファロ – 社会保険労務士、障害者雇用戦略アドバイザー
人工透析患者として10年勤務した経験と、外部CHROとして経営者の視点を融合し、福祉でなく「経営戦略」としての障害者雇用を提案。制度と現場の”すき間”を埋め、戦力化を実現する仕組みづくりが得意。現場が前向きに受け入れる障害者雇用を実践的に支援中。