Amazon障害者差別疑惑が警告する「合理的配慮のシステム化」が孕む深刻なリスク――対話なき配慮は配慮ではない

「合理的配慮の申請を、どう管理すればいいのか分からない」
「配慮の要望が増えすぎて、対応しきれない」
「システム化して効率化できないだろうか」

2024年4月から合理的配慮の提供が義務化された日本でも、こうした悩みを抱える企業が増えています。

そんな中、2025年6月30日、英The Guardian紙が衝撃的なニュースを報じました。

米Amazon社の障害者社員200名以上が、CEOを含む経営陣に対し、「合理的配慮の申請がAIによって自動的に却下されている」として、組織的差別を訴える書簡を送付したというのです。

内部調査によると、障害者社員の71%が「配慮申請の半分以上が却下または未対応」、92%が「配慮申請プロセスにアクセシビリティがない」と回答しています。

この問題は、決して海外の大企業だけの話ではありません。今後、人事領域でもAI・システムの活用が進む日本企業にとって、配慮プロセスのシステム化が、対話の放棄になってはならないという重要な教訓を示しています。

今回は、Amazon障害者差別疑惑の詳細を読み解きながら、日本企業が合理的配慮において注意すべきポイントを、社会保険労務士の視点から解説します。

1. Amazon障害者社員が訴える「組織的差別」の実態

▼ 33ページの書簡が明かした問題

2025年5月31日、Amazon社の障害者社員200名以上が、CEO アンディ・ジャシー氏を含む経営幹部に対し、33ページに及ぶ書簡を送付しました。

書簡の核心は、以下の3点です。

1. 合理的配慮の申請が「自動化」または「半自動化」された方法で却下されている
2. オフィス復帰命令が、医学的推奨に基づいて在宅勤務を認められていた障害者社員にも一律適用されている
3. 社内Slackでの組織化の試みが抑圧され、投稿や署名が削除されている

書簡には、こう記されています。

「ここに記録された組織的差別、報復、方針の失敗は、ADA(障害を持つアメリカ人法)に違反するだけでなく、信頼を損ない、個人の健康を害し、会社の誠実性を損なうものである。私たちは、これらの方針を改革し、真にインクルーシブな職場を育み、すべての社員の権利を守るための即座の行動を求める」

▼ 内部調査が示す深刻な数字

障害者社員を対象にした内部調査によると、

– 93%が「現行の方針によって害を受けている」と回答
– 71%が「配慮申請の半分以上が却下または未対応」と回答
– 92%が「配慮申請プロセスにアクセシビリティがない」と回答

書簡には、こう続きます。

「配慮を申請する社員は、有意義な対話を経験できない。申請は無視され、説明なく却下され、あるいは自動化システムによって却下される」

▼ AIによる配慮申請の却下疑惑

複数の関係者が、Guardian紙に対し、配慮申請の判断にAIプロセスが使われており、それがADAのルールに必ずしも従っていないと証言しています。

つまり、障害者一人ひとりの状況に応じた個別対応が求められる合理的配慮において、AIが一律判断を下している可能性があるというのです。

2. 組織化の抑圧疑惑――Slack投稿の削除と解雇

問題は、配慮プロセスだけにとどまりません。

▼ Slack投稿の削除

障害者社員たちが社内Slack(社員コミュニケーションツール)のチャンネルで、配慮に関する問題を共有し、意見を集めようとしたところ、**投稿やオンライン署名が次々と削除された**とされています。

Guardian紙は、削除されたSlack投稿のスクリーンショットを入手しています。

▼ 組織化の中心人物が解雇

さらに衝撃的なのは、障害者社員の組織化を主導していた一人が、Guardian紙の取材中に説明なしに解雇されたと報じられていることです。

解雇された社員は、Amazon幹部に宛てた6月6日付のメールで、こう訴えていました。

「私のSlackアクセスが削除され、更新を送信したり、調整したり、全国労働関係法(NLRA)が保護する活動に従事することができなくなった」

そして、Guardian紙にこう語っています。

「Slackでのメッセージ削除と私の解雇の後、他の人々は今、恐れています。彼らと話しますが、皆、Amazonがこうしたことをすることに恐怖を感じています」

▼ Amazonの反論

Amazonは、以下のように反論しています。

– 投稿削除については「社内システムの勧誘目的使用は規約違反であるため」
– 「Amazonは社員の組織化する権利を尊重しており、これらの権利を妨害しない」
– 「組織化活動に従事した社員に対する差別や報復は行っていない」

しかし、労働法の専門家は、職場のSlackアカウントでの組織化を抑圧することは、労働者の権利を侵害する可能性があると指摘しています。

実際、2024年10月、全国労働関係委員会(NLRB)は、Appleに対し、Slackでの労働者の組織化活動を妨害しているとして苦情を申し立てています。

3. Amazonの公式見解――「配慮プロセスは自動化されていない」

Guardian紙のコメント要請に対し、Amazonは以下のように回答しています。

– 配慮プロセスは自動化または半自動化されていない
– AIは配慮申請のケース処理や意思決定に使用されていない
– 配慮決定は「共感」をもって行われている
– 少数の未検証の社員による外部調査は、障害者全体の意見を反映していない

しかし、障害者社員たちは、この説明に納得していません。

4. Amazonの過去の問題――制度と現場のギャップ

興味深いのは、Amazonが2023年に「障害者インクルージョンのベストプレイス・トゥ・ワーク」ランキングで高評価を得ていたことです。

ただし、このランキングを提供する非営利団体は、Amazonから資金提供を受けているとの指摘もあります。

つまり、**制度や評価だけでは、現場の実態は見えない**のです。

実際、Amazonは過去にも障害者への配慮をめぐる法的問題に直面しています。

– 2023年:倉庫労働者が障害や職場の怪我に対する合理的配慮を得る上で組織的障壁に直面しているとの報告
– 2024年:カリフォルニア州の倉庫で、聴覚障害のある社員に手話通訳を提供しなかったとして提訴
– 2023年:オフィス復帰命令に対しリモートワークを擁護した元社員が、報復的に追い出されたと主張(Amazon側はパフォーマンス問題と主張)

5. 日本企業への示唆――合理的配慮のシステム化が孕むリスク

▼ 日本でも進む合理的配慮の義務化

日本でも、2024年4月から合理的配慮の提供が義務化されました。

企業は、障害者雇用促進法に基づき、

– 障害者からの配慮要望を真摯に受け止める
– 本人と対話しながら、過重な負担にならない範囲で配慮を提供する
– 配慮の内容を記録・管理する

ことが求められています。

▼ システム化と対話のバランス

今後、人事領域でもDX(デジタルトランスフォーメーション)が進み、配慮申請の管理をシステム化する企業が増えるでしょう。

しかし、Amazonの事例が示すのは、配慮プロセスのシステム化が、対話の放棄になってはならないということです。

▼ 日本企業が注意すべき5つのポイント

1. 申請の却下理由を明確に説明する
– 「システムで却下されました」では済まされない
– なぜ配慮できないのか、代替案はあるのかを対話する

2. AIやシステムを「補助」として使う
– システムは効率化のツールであり、判断の代替ではない
– 最終判断は人間が、対話を通じて行う

3. 障害者社員の声を聞く仕組みを作る
– 配慮が適切に機能しているかを定期的に確認
– 社内の障害者コミュニティを支援する(社員リソースグループなど)

4. 制度と運用のギャップを検証する
– 「制度はある」だけでは不十分
– 現場で本当に機能しているかを確認する

5. 経営層と現場のコミュニケーションを確保する
– 障害者社員の声が経営層に届く仕組みを作る
– 定期的なヒアリングやアンケートを実施する

6. 合理的配慮の本質――対話なき配慮は配慮ではない

合理的配慮の本質は、一人ひとりと対話し、個別に解決策を探ることです。

障害の種類・程度、業務内容、本人の希望は千差万別であり、画一的なマニュアルやシステムでは対応しきれません。

厚生労働省の「合理的配慮指針」でも、以下のように明記されています。

「合理的配慮は、個々の事情を有する障害者と事業主との相互理解の中で提供されるべきものである」

つまり、対話なき配慮は、配慮ではないのです。

7. 社労士として企業に伝えたいこと

私は、障害者雇用コンサルティングを専門とする社会保険労務士として、多くの企業さまの支援をしてきました。

その中で痛感するのは、制度を作ることと、制度を機能させることは、全く別の課題だということです。

合理的配慮の義務化を受けて、多くの企業が申請フォームを作り、対応マニュアルを整備しました。それは素晴らしいことです。

しかし、それだけでは不十分です。

– 障害者社員が安心して配慮を申請できる雰囲気があるか?
– 申請に対して、丁寧に対話しているか?
– 配慮が適切に機能しているか、定期的に確認しているか?
– 困りごとを相談できる窓口があるか?

これらを継続的に確認し、改善していくことが、本当の意味での「インクルーシブな職場」を作ります。

そしてそれは、障害者だけでなく、育児・介護中の社員、持病のある社員、すべての社員が働きやすい組織づくりにつながります。

8. まとめ――システム化は手段であり、目的ではない

Amazon障害者差別疑惑は、合理的配慮におけるシステム化と対話のバランスの重要性を、改めて浮き彫りにしました。

効率化のためのシステム導入は有効ですが、それが対話を奪い、個別性を失わせるものであってはなりません。

日本企業も、合理的配慮の義務化を受けて、これから本格的な運用フェーズに入ります。

その際、「システムで管理すれば終わり」ではなく、一人ひとりと向き合い、対話を通じて最適な配慮を探るという姿勢を忘れてはいけません。

もし貴社が、

– 合理的配慮の運用に課題を感じている
– 配慮申請が増えて対応に困っている
– システム化と対話のバランスをどう取ればいいか分からない
– 障害者社員の本音が聞けていない気がする

とお考えなら、ぜひ一度ご相談ください。

制度設計にとどまらず、現場で本当に機能する障害者雇用支援を、一緒に作りましょう。

合理的配慮は、システムで完結するものではありません。人と人との対話の中で、初めて実現するものです。

【参考記事】
The Guardian(2025年6月30日)
“Disabled Amazon workers in corporate jobs allege discrimination”
https://www.theguardian.com/us-news/2025/jun/30/disabled-amazon-workers-discrimination

【この記事を書いた人】
障害者雇用コンサルティング専門 社会保険労務士
企業の障害者雇用推進、合理的配慮の設計、職場定着支援を専門としています。法令遵守にとどまらず、障害者雇用を企業成長の原動力に変えるサポートを行っています。