障害者雇用70万人突破の裏にある「ノウハウ格差」―57%の企業が1人も雇用していない現実と、中小企業が今すぐできる最初の一歩
1. 障害者雇用70万人突破!でも半数以上の企業が「1人も雇用していない」
福祉新聞が2026年1月に報じた障害者雇用の最新データは、喜びと課題が入り混じった内容でした。
民間企業で働く障害者が、ついに70万人を突破。前年から4%増え、22年連続で過去最多を更新したのです。
これは一見、日本の障害者雇用が順調に進んでいることを示す素晴らしいニュースです。しかし、企業の経営者や人事担当者の目線で見ると、この数字の裏には深刻な「二極化」が隠れています。
・ 法定雇用率を達成している企業は46%のみ
法定雇用率2.5%を達成している企業は、全体のわずか46%。つまり、半数以上の企業が法定雇用率を達成できていないのが現状です。
さらに衝撃的なのは、未達成企業の57.3%が「障害者を1人も雇用していない」という事実です。
これは何を意味しているのでしょうか?
障害者雇用に積極的に取り組み、ノウハウを蓄積している企業はどんどん前に進んでいる一方で、「どこから手をつけていいかわからない」「ノウハウがない」という企業は、スタートラインにすら立てていないのです。
・ 「ノウハウ格差」が企業の明暗を分ける時代
私が日々、企業からご相談を受ける中で感じるのは、障害者雇用の成否を分けるのは「企業の規模」や「業種」ではなく、**「ノウハウの有無」**だということです。
大企業でも中小企業でも、適切な知識と準備があれば障害者雇用は成功します。逆に、どんなに規模が大きくても、ノウハウなしに進めれば失敗します。
つまり、「ノウハウ格差」が企業の二極化を生んでいるのです。
2. 精神障害者雇用が12%増―多様な障害特性への対応が進む時代
今回のデータでもう一つ注目すべきは、精神障害者の雇用が前年比12%増と大きく伸びていることです。
・ 障害種別の雇用状況
– 身体障害者と知的障害者を合わせた数
– 精神障害者の数
この2つがほぼ半々になってきているのが現状です。
・ 精神障害者雇用が増えている3つの背景
・背景①:企業の理解が深まってきた
うつ病、双極性障害、発達障害、統合失調症など、精神障害にも様々な特性があり、適切な配慮があれば十分に戦力になることを、企業が理解し始めています。
・背景②:在宅勤務・フレックスタイムなど柔軟な働き方の普及
コロナ禍を経て、柔軟な働き方が一般化したことで、精神障害のある方が働きやすい環境が整ってきました。
・背景③:就労意欲の高まり
精神障害のある方自身も、「働きたい」「社会に貢献したい」という意欲を持ち、就労支援機関などを通じて積極的に就職活動をしています。
・ 多様な障害特性への対応が企業の成長につながる
精神障害者の雇用が増えているということは、企業が「身体障害だけ」「知的障害だけ」という固定観念から脱却し、多様な障害特性に対応できる組織になってきた証拠です。
これは、障害者雇用にとどまらず、高齢者、子育て中の社員、介護中の社員など、様々な事情を抱える人材が活躍できる「インクルーシブな組織」への進化でもあります。
3. 「ノウハウ格差」が二極化を生んでいる―企業が直面する3つの壁
私がこれまで数多くの企業をサポートしてきた経験から、「1人も雇用していない」企業が直面している壁は、主に3つあります。
・ 壁①:情報不足の壁「どこから始めればいいかわからない」
障害者雇用促進法、合理的配慮、助成金制度、就労支援機関との連携、特例子会社、職場適応援助者(ジョブコーチ)……。
初めて障害者雇用に取り組む企業にとって、覚えるべき専門用語や制度が多すぎて、何から手をつければいいのかわからなくなってしまいます。
・ 壁②:業務設計の壁「適切な仕事が見つからない」
「うちの会社には障害者に任せられる仕事がない」という声をよく聞きます。
しかし実際には、既存業務の一部を切り出したり、複数の業務を組み合わせたり、新たな業務を創出したりすることで、障害のある方が活躍できる場は必ず見つかります。
ただし、そのためには「業務の棚卸し」と「再設計」というステップが必要で、ここに専門的なノウハウが求められます。
・ 壁③:心理的な壁「失敗したらどうしよう」
「既存社員の理解が得られるか」
「どんな配慮が必要かわからない」
「トラブルが起きたらどうするか」
「定着しなかったら採用コストが無駄になる」
こうした不安が、最初の一歩を躊躇させる大きな要因になっています。
しかし、**適切な準備と段階的なアプローチ**をとれば、これらの不安は解消できます。
4. 中小企業こそ障害者雇用に向いている5つの理由
「障害者雇用は大企業だけができること」と思っていませんか?
実は、中小企業にこそ、障害者雇用を成功させる独自の強みがあります。
・ 理由①:顔の見える関係が作れる
大企業のように部署が細かく分かれていないからこそ、経営者や管理職が障害のある社員一人ひとりの状況を把握しやすく、きめ細かいフォローができます。
・ 理由②:柔軟な働き方を設計しやすい
大企業ほど厳格な就業規則やルールに縛られず、個人の障害特性や生活リズムに合わせた働き方を柔軟に設計できます。
・ 理由③:温かい組織風土
家族的な雰囲気、アットホームな職場環境――中小企業ならではの温かさが、障害のある方が安心して働ける環境を作ります。
・ 理由④:業務の切り出しや再設計がしやすい
大企業のように複雑な業務フローや承認プロセスがないため、業務の見直しや新たな業務の創出がスピーディーに行えます。
・ 理由⑤:社員全員で支える文化が作りやすい
中小企業は社員数が少ないからこそ、「会社全体で支える」「みんなで助け合う」という文化が根付きやすいのです。
つまり、中小企業の「小ささ」は弱みではなく、障害者雇用における強みなのです。
5. 「1人も雇用していない」企業が最初の一歩を踏み出すために
では、具体的にどこから始めればいいのでしょうか?
ステップ①:現状把握から始める
まずは自社の従業員数を正確に把握し、法定雇用率2.5%に基づいて「何人の障害者を雇用する必要があるか」を計算しましょう。
計算方法:
常用労働者数 × 2.5% = 必要な障害者雇用数
例:従業員50人の企業の場合
50人 × 2.5% = 1.25人 → 1人以上の雇用が必要
ステップ②:経営トップの理解とコミットメントを得る
障害者雇用を成功させる最大の要因は、経営トップが「会社の方針」として明確に示すことです。
トップが本気であることが伝われば、社内の意識は必ず変わります。
ステップ③:支援機関に相談する
一人で悩まず、専門家や支援機関に相談しましょう。後ほど詳しく説明しますが、ハローワーク、就労支援機関、社会保険労務士など、様々なサポート体制があります。
ステップ④:既存社員への説明と理解促進
障害者雇用を進める前に、既存社員に対して説明会や勉強会を開き、障害者雇用の意義や具体的な配慮について理解を深めてもらいます。
ステップ⑤:業務の洗い出しと切り出し
「障害者にできる仕事」ではなく、「この人の強みを活かせる仕事」という視点で業務を設計します。
まずは既存業務の中から、切り出せる業務をリストアップしましょう。
ステップ⑥:少人数から始める
いきなり多数の障害者を雇用するのではなく、まず1〜2名から始めて、ノウハウを蓄積しながら拡大していくのが賢明です。
6. 2026年7月の法改正で何が変わる?今から準備すべき3つの理由
実は、2026年7月にさらなる法改正が控えています。
・ 法定雇用率が2.7%に引き上げ
現行の2.5%から、2.7%に引き上げられることが決定しています。
これにより、企業が雇用すべき障害者数がさらに増えることになります。
・ 対象企業の範囲拡大
現在は従業員40人以上の企業が対象ですが、法定雇用率の引き上げに伴い、従業員37.5人以上の企業が対象となります。
「うちは対象外」と思っていた小規模企業も、雇用義務を負うことになるのです。
・ 今から準備を始めるべき3つの理由
理由①:採用活動には時間がかかる
障害者の採用市場は競争が激しく、希望する人材を見つけるまでに数ヶ月〜1年かかることも珍しくありません。
理由②:受け入れ体制の構築には準備期間が必要
社内の理解促進、業務設計、物理的な環境整備、支援機関との連携などには、相応の時間が必要です。
理由③:焦った採用はミスマッチを生む
直前になって慌てて採用すると、企業と障害者双方にとって不幸な結果を招きかねません。余裕を持った準備が、定着率を高めます。
7. 障害者雇用のノウハウは「得るもの」―活用すべき5つの支援機関
障害者雇用のノウハウは、ゼロから作り上げる必要はありません。すでに多くの支援機関が、企業をサポートする体制を整えています。
①ハローワーク(公共職業安定所)
何ができる:
– 障害者の求人募集・紹介
– 職業相談・職業紹介
– トライアル雇用の支援
– 各種助成金の申請サポート
メリット:
無料で利用でき、全国にネットワークがあります。
・ ②就労支援機関(就労移行支援事業所・就労継続支援A型・B型)
何ができる:
– 就労準備が整った障害者の紹介
– 職場実習の受け入れ
– 採用後の職場定着支援
– 企業と障害者の橋渡し役
メリット:
障害者の特性をよく理解しており、マッチング精度が高い。
・ ③障害者職業センター
何ができる:
– ジョブコーチ(職場適応援助者)の派遣
– 職業評価・職業リハビリテーション
– 企業向けの相談・援助
メリット:
専門的な支援が受けられ、職場定着率が高まります。
④特別支援学校
何ができる:
– 新卒の障害者の紹介
– 職場実習の受け入れ
– 学校との連携による長期的なサポート
メリット:
若くて意欲的な人材と出会え、長期的な育成ができます。
・ ⑤社会保険労務士(障害者雇用専門)
何ができる:
– 法令遵守のアドバイス
– 就業規則の整備
– 助成金の申請代行
– 採用から定着までのトータルサポート
メリット:
労務管理の専門家として、法的リスクを回避しながら障害者雇用を進められます。
8. まとめ:70万人は通過点、すべての企業が取り組める社会へ
障害者雇用70万人突破は、確かに素晴らしいマイルストーンです。
しかし、それは決してゴールではなく、通過点に過ぎません。
私たちが目指すべきは、「1人も雇用していない」57%の企業が、最初の一歩を踏み出せる社会。すべての企業が、無理なく、前向きに障害者雇用に取り組める社会です。
・ 障害者雇用がもたらす5つの効果
✅ 多様な視点が組織に新しい気づきをもたらす
✅ 既存社員の成長を促す(配慮する力、教える力)
✅ 業務の見直しによる効率化
✅ 企業イメージの向上と採用競争力の強化
✅ 社会貢献を通じた社員のモチベーション向上
障害者雇用は、単なる「法律の義務」や「社会貢献」ではありません。適切に進めれば、企業にとっての「投資」であり「成長機会」になるのです。
・ 最初の一歩を踏み出すために
「どこから始めればいいかわからない」
「自社に合った進め方を知りたい」
「ノウハウがなくて不安」
そんな経営者や人事担当者の方は、ぜひお気軽にご相談ください。
御社の規模、業種、状況に合わせた、無理のない障害者雇用の進め方を、一緒に考えていきましょう。
中小企業には、中小企業ならではの強みがあります。その強みを活かして、障害のある方が安心して働ける職場を作る。
それが、企業の成長にもつながり、社会全体の豊かさにもつながる。
そんな好循環を、一緒に作っていきませんか?
【参考資料】
福祉新聞「障害者雇用70万人突破 22年連続で最多更新」(2026年1月12日)
動画も公開しています。
企業の「困った」を解決!障害者雇用サポート塾
https://youtube.com/channel/UC4CPSnfSxvaVCEA902K9gfQ?si=NCauCnBZAPc7U-Fh

