障害者雇用70万人突破の真実――2026年法改正を前に企業が直面する「数」と「質」の二極化
〇華やかな数字の裏にある現実
厚生労働省が公表した令和7年の障害者雇用状況集計結果によると、民間企業で働く障害者が初めて70万人を突破し、22年連続で過去最多を更新しました。実雇用率も2.41%と過去最高を記録しています。
この数字だけを見れば、日本の障害者雇用は順調に進展しているように見えます。しかし、私は社会保険労務士として、また人工透析患者として10年間働いた当事者として、この「70万人突破」という華やかな数字の裏に潜む構造的な課題を指摘せざるを得ません。
本記事では、障害者雇用の現状と課題、そして2026年に迫る法改正を前に企業が今すぐ取り組むべき「未来に耐える障害者雇用」について、実務的な視点から解説します。
〇 法定雇用率達成企業はわずか46%――「数合わせ」の限界
・ 半数以上の企業が未達成という現実
令和7年の集計結果で最も注目すべき点は、法定雇用率2.5%を達成している企業が46%にとどまり、前年と同じ水準だったことです。つまり、半数以上の企業が法定雇用率を満たせていない状況が続いています。
さらに、法定雇用率未達成企業のうち、障害者を1人も雇用していない企業も一定数存在します。これは「雇用したくてもできない」のか、それとも「雇用する気がない」のか――いずれにせよ、制度が十分に機能していない証左です。
・ 2026年7月には法定雇用率2.7%へ
2026年7月には、法定雇用率がさらに2.7%へ引き上げられます。これにより、従業員37.5人以上の企業すべてが障害者雇用義務の対象となります。現在の従業員40人以上という基準から拡大されるため、中小企業にとっても無視できない課題となります。
未達成の場合、1人あたり月5万円の納付金が発生します(現在は従業員100人超の企業が対象ですが、将来的には100人以下の企業にも拡大される方向で検討が進んでいます)。
・ 「数合わせ」がもたらす悪循環
多くの企業が、法定雇用率を達成するために「とにかく雇用する」という姿勢に陥っています。しかし、戦力化の仕組みがないまま採用しても、結果として以下のような悪循環が生まれます。
– 現場の負担増大:受け入れ体制が整っていないため、既存社員に負担がかかる
– 障害者の早期離職:適切な業務がなく、居場所がないと感じて退職してしまう
– 企業の疲弊:採用コストをかけても定着せず、「回転ドア」状態になる
私はこれを「数合わせの限界」と呼んでいます。制度は「道具」です。使い方を間違えれば、企業も障害者も疲弊するだけです。
〇 精神障害者雇用11.8%増が示す「多様化」と「定着課題」
・ 精神障害者雇用の急増
令和7年の集計結果では、精神障害者の雇用が前年比11.8%増と大きく伸びています。これは、障害者雇用の多様化を示すポジティブな兆候です。身体障害者、知的障害者に加え、精神障害者の雇用が進むことで、企業はより幅広い人材を活用できる可能性が広がります。
・ しかし、定着支援が追いついていない
一方で、精神障害者の雇用には特有の課題があります。それは「見えにくい障害」であるがゆえに、周囲の理解や適切な配慮が得られにくいことです。
例えば、以下のような課題があります。
– 体調の波への対応:精神障害は日によって体調が変動しやすく、柔軟な働き方が求められる
– コミュニケーションの工夫:対人関係のストレスが症状悪化につながるため、職場環境の配慮が必要
– 業務負荷の調整:過度なプレッシャーや長時間労働は避けるべき
これらの配慮を怠ると、早期離職につながります。実際、精神障害者の職場定着率は身体障害者や知的障害者に比べて低い傾向にあります。
・ 「雇用したら終わり」ではない
企業が理解すべきは、「雇用したら終わり」ではないということです。定着支援、継続的なフォローアップ、職場環境の調整――これらすべてが、障害者雇用の「質」を左右します。
私が提唱するのは、福祉的配慮ではなく、「経営戦略としての障害者雇用」です。つまり、障害者が戦力として機能する仕組みを構造的に設計することです。
〇 「未来に耐える障害者雇用」とは何か――経営戦略としての視点
・ 制度は「道具」である
私の思想の核心は、「制度は道具である」という考え方です。障害者雇用促進法も、法定雇用率も、すべては道具にすぎません。大切なのは、その道具をどう使うかです。
間違った使い方をすれば、企業も障害者も疲弊します。正しく使えば、企業の競争力を高め、障害者が活躍できる環境が生まれます。
・ 「未来に耐える構造」を設計する
私が企業に提案するのは、「未来に耐える構造」です。これは以下の3つの要素から成り立ちます。
1. 現場が前向きに受け入れられる仕組みづくり
障害者雇用が成功するかどうかは、現場の受け入れ態勢にかかっています。トップダウンで「雇用しなさい」と指示するだけでは、現場は疲弊します。
大切なのは、業務の切り出しと再設計です。障害者が担当できる業務を明確にし、既存社員の負担を増やさない形で組織に組み込む。これが、現場が前向きに受け入れられる第一歩です。
2. 是正可能性を持つこと
「未来に耐える」ためには、是正可能性が不可欠です。つまり、間違った方向に進んでも、軌道修正できるルートを持っているかどうかです。
例えば、以下のようなPDCAサイクルを回せる体制が必要です。
– Plan(計画):障害者が担当する業務を明確化
– Do(実行):実際に雇用し、業務を開始
– Check(評価):定着状況や業務遂行状況を定期的に確認
– Action(改善):問題があれば迅速に改善策を講じる
このサイクルを回すことで、「雇用したけれど機能しない」という事態を避けることができます。
3. 結果責任を引き受ける覚悟
私の思想のもう一つの核心は、「結果責任倫理」です。善悪はルールではなく、「結果責任を引き受けられる覚悟の量」で測られます。
障害者雇用においても同じです。経営層が「とりあえず雇用すればいい」という姿勢ではなく、「この人と一緒に働き続けられる構造を作る」という覚悟を持つこと。それが、長期的に壊れない選択につながります。
〇 2026年法改正を「試練」ではなく「チャンス」に変える
・ 法改正は組織変革のきっかけ
2026年7月の法定雇用率引き上げは、企業にとって「試練」であると同時に「チャンス」でもあります。
なぜなら、この法改正を機に、組織全体の働き方や業務設計を見直すきっかけになるからです。障害者雇用は、単なる義務ではなく、組織の柔軟性や多様性を高める戦略として捉えることができます。
・ 「数」ではなく「質」へのシフト
厚生労働省も、障害者雇用の「質」向上に向けた指針策定を進めています。2027年には障害者雇用促進法など関係法令の見直しが予定されており、今後は「数」だけでなく「質」が問われる時代になります。
企業が今すぐ取り組むべきは、以下の3点です。
1. 業務の棚卸しと切り出し:障害者が担当できる業務を明確化する
2. 定着支援体制の構築:継続的なフォローアップとメンタルヘルスケアの仕組みを作る
3. 経営層の関与:障害者雇用を経営戦略として位置づけ、トップがコミットする
〇 70万人という数字の先に見えるもの
障害者雇用70万人突破という数字は、確かに進展の証です。しかし、その裏には「数合わせ」に終始する企業の姿があり、法定雇用率を達成できていない企業が半数以上存在するという現実があります。
私が企業に伝えたいのは、「正しさよりも、未来に耐えるかどうか」です。
目先の数字達成に追われるのではなく、長期的に持続可能な障害者雇用の仕組みを構築すること。現場が前向きに受け入れられる構造を設計すること。そして、結果責任を引き受ける覚悟を持つこと。
2026年の法改正を前に、企業には「是正可能性」が求められています。間違った方向に進んでも、軌道修正できるルートを持っているか。それが、長期的に壊れない選択につながります。
70万人という数字の先に、本当の意味での「共生社会」が見えるかどうか。それは、今この瞬間の企業の選択にかかっています。
私は、障害者雇用を「経営戦略」として捉え、制度と現場の”すき間”を埋める支援をしています。数字ではなく、結果責任を引き受けられる覚悟を持って。
もしこの記事を読んで「相談してみたい」と思われた方は、ぜひお気軽にご連絡ください。未来に耐える障害者雇用を、一緒に作りましょう。
参考記事:https://news.yahoo.co.jp/articles/a867e582559a0529dd66a192f75771dab88f1ec5
動画も公開しています。
企業の「困った」を解決!障害者雇用サポート塾
https://youtube.com/channel/UC4CPSnfSxvaVCEA902K9gfQ?si=NCauCnBZAPc7U-Fh


