小企業も納付金対象へ――障害者雇用の「責任の範囲」拡大が中小企業に問うもの
〇「100人以下」にも納付金義務が拡大される
厚生労働省の「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」の報告書案によると、障害者雇用の法定雇用率未達成企業に課される納付金制度の対象が拡大される見込みです。
現在、納付金の納付義務があるのは従業員100人超の企業ですが、これを100人以下の中小企業にも拡大する方向で議論が進んでいます。
未達成の場合、不足1人あたり月5万円の納付金が発生します。
この制度拡大は、中小企業にとって大きなインパクトを持ちます。本記事では、社会保険労務士として、また外部CHROとして多くの企業の障害者雇用を支援してきた立場から、この制度拡大の意味と、中小企業が今すぐ取り組むべきことを解説します。
〇 納付金制度とは何か――「罰金」ではなく「調整金の財源」
・ 障害者雇用納付金制度の仕組み
まず、障害者雇用納付金制度の基本を確認しましょう。
障害者雇用促進法では、企業に一定割合の障害者を雇用することを義務づけています(法定雇用率)。2024年4月から法定雇用率は2.5%、2026年7月からは2.7%に引き上げられます。
法定雇用率を達成していない企業は、不足1人あたり月5万円の「障害者雇用納付金」を納付する義務があります。
一方、法定雇用率を超えて障害者を雇用している企業には、超過1人あたり月2万7千円(常用労働者100人超)または2万1千円(同100人以下)の「障害者雇用調整金」が支給されます。
つまり、納付金は「罰金」ではなく、障害者雇用を積極的に進める企業への支援財源として活用されているのです。
・ 現行制度の対象範囲
現行制度では、納付金の納付義務があるのは**常用労働者100人超の企業**のみです。100人以下の企業は、法定雇用率を達成していなくても、金銭的ペナルティはありません。
しかし、報告書案では「雇用納付金の納付義務が生じる企業の範囲を、常用労働者100人以下に拡大することは引き続き議論する」とされており、今後の法改正で対象が拡大される見込みです。
〇 なぜ制度拡大が必要なのか――中小企業が雇用の大半を担っている
・ 日本の雇用構造の現実
なぜ、100人以下の中小企業にも納付金義務を拡大する必要があるのでしょうか。
理由は明確です。日本の雇用の大半を担っているのは中小企業だからです。
中小企業庁のデータによれば、日本の企業の99.7%は中小企業であり、全従業員の約7割が中小企業で働いています。大企業だけが障害者雇用を進めても、社会全体の障害者雇用率は大きく向上しません。
・ 現行制度の「抜け穴」
現行制度では、従業員100人以下の企業には納付金義務がないため、「法定雇用率を達成しなくても金銭的ペナルティがない」という状況が続いています。
もちろん、雇用義務自体は存在します。しかし、実効性を担保する手段が限られているのが現実です。
その意味で、納付金対象の拡大は「必要な一歩」です。
〇 しかし、「罰金」だけでは進まない――中小企業の現場の実態
・ 中小企業には支援体制がない
私はこの制度拡大に諸手を挙げて賛成するわけではありません。なぜなら、「罰金」だけ課しても、本質的な解決にはならないからです。
中小企業には、大企業のような人事部門も、専門的な支援体制もありません。障害者雇用に関する知識やノウハウも不足しています。
「雇用しなさい」と言われても、以下のような疑問が現場から聞こえてきます。
– 「どんな業務を任せればいいの?」
– 「受け入れ体制をどう整えればいいの?」
– 「給与はどう設定すればいいの?」
– 「助成金や支援制度はあるの?」
こうした疑問に答える仕組みがないまま、ただ納付金を課しても、企業は「お金で解決」する道を選びがちです。
・ 「数合わせ」では質は向上しない
納付金を払えばいい、という姿勢になれば、結局は「お金で解決」となり、障害者雇用の質は向上しません。
あるいは、障害者雇用ビジネスに丸投げして、形だけ整える――そんな「数合わせ」が横行する可能性もあります。
私が提唱するのは、「未来に耐える構造」です。目先の数字達成ではなく、長期的に持続可能な障害者雇用の仕組みを作ること。それが、企業にとっても障害者にとっても、最善の道です。
〇 中小企業が本当に必要としている3つの支援
1. 業務の切り出しを支援する仕組み
中小企業が単独で「どの業務を障害者に任せるか」を判断するのは困難です。
必要なのは、以下のような支援です。
– 業務の棚卸し支援:現在の業務を可視化し、切り出し可能な業務を特定する
– 専門家の派遣:社会保険労務士やジョブコーチなど、専門家が現場に入ってアドバイス
– 業種別・規模別の事例集:自社と似た規模・業種の成功事例を参考にできる
これらの支援があれば、中小企業も「何をすればいいか」が見えてきます。
2. 共同雇用の促進
複数の中小企業が共同で障害者を雇用する仕組みを整備することも有効です。
例えば、以下のようなモデルです。
– A社で週2日、B社で週3日働く:1社あたりの負担を軽減しながら、障害者には安定した雇用を提供
– 業界団体や商工会議所が調整役:企業間のマッチングや業務調整をサポート
共同雇用は、中小企業にとっても障害者にとってもメリットがあります。ただし、制度的な整備(雇用率の算定方法、労務管理の責任分担など)が必要です。
3. 納付金の使途の明確化
納付金がどう使われているのか、企業にも障害者にも見えるようにすることが重要です。
「罰金」ではなく「投資」として捉えられる仕組みが必要です。例えば、以下のような透明化が考えられます。
– 業界別の還元状況の公表:自社の納付金が自社の業界の障害者雇用支援にどう還元されているか
– 調整金の受給企業の公表:どの企業が積極的に障害者雇用を進めているか
これにより、企業の納得感も高まります。
〇 「制度は道具」――使い方次第で罰にも支援にもなる
・ 制度設計の巧拙が結果を左右する
私の思想の核心は、「制度は道具である」ということです。
納付金制度も、使い方次第で「罰」にも「支援」にもなります。ただ罰金を課すだけでは、企業は疲弊し、障害者雇用は進みません。
大切なのは、「未来に耐える構造」を作ることです。
中小企業が本当に障害者を雇用できる環境を整え、その上で納付金制度を拡大する――この順番が重要です。制度ありきではなく、現場の実態を踏まえた「是正可能性」を持つ制度設計が求められます。
・ 「嫌われる覚悟」を持つこと
一方で、中小企業の経営層には「結果責任を引き受ける覚悟」が求められます。
納付金を払えばいい、という姿勢ではなく、「この人と一緒に働き続けられる構造を作る」という覚悟を持つこと。それが、長期的に壊れない選択につながります。
短期的には、現場から「負担が増える」「面倒だ」という声が上がるかもしれません。しかし、経営者としての責任は、目先の称賛ではなく、長期的に持続可能な組織を作ることです。
これが、私の言う「嫌われる覚悟」です。
〇 行政に求められる「支援拡大」とのセット
・ 罰だけでなく、支援を
行政には、「企業を支援する覚悟」が求められます。
罰を課すだけでなく、実効性のある支援策を提供すること。それが、制度の信頼性を高めます。
具体的には、以下のような施策が考えられます。
– 助成金の拡充:中小企業が障害者を雇用する際の初期コストを支援
– 専門家派遣の無料化:社会保険労務士やジョブコーチの派遣を無料または低コストで
– 相談窓口の充実:ハローワークや商工会議所での相談体制の強化
・ 「時間軸判断」が重要
私の思想の核心の一つは、「時間軸判断」です。
今の同意や合法性よりも、将来の持続性と回復可能性を優先する――この視点が、制度設計には不可欠です。
納付金制度を拡大するなら、同時に支援策も拡充する。企業が「雇用できる環境」を整えてから、制度を適用する。この時間軸を間違えれば、制度は形骸化します。
〇 中小企業が今すぐ取り組むべき3つのこと
1. 現状の把握と法定雇用率の確認
まず、自社の現状を把握しましょう。
– 現在の従業員数は何人か
– 法定雇用率は達成しているか
– 未達成の場合、不足人数は何人か
2026年7月には法定雇用率が2.7%に引き上げられます。従業員37.5人以上の企業すべてが雇用義務の対象となります。
2. 業務の棚卸しと切り出し
次に、業務の棚卸しを行いましょう。
– どの業務が切り出し可能か
– 障害者が担当できる業務はあるか
– 既存社員の負担を増やさない形で組織に組み込めるか
これは、専門家のサポートを受けることをお勧めします。
3. 支援機関や専門家への相談
最後に、支援機関や専門家に相談しましょう。
– ハローワークの専門援助部門
– 障害者就業・生活支援センター
– 社会保険労務士(障害者雇用に詳しい専門家)
早めに動くことで、選択肢が広がります。
〇制度拡大と支援拡大をセットで
納付金制度の対象拡大は、「必要だが、十分ではない」――これが私の結論です。
制度拡大と同時に、中小企業への支援拡大をセットで進めることが不可欠です。罰ではなく、戦略として。義務ではなく、競争力として。
私は、制度と現場の”すき間”を埋め、中小企業でも実現可能な障害者雇用の仕組みを提案しています。福祉ではなく、経営戦略として。
正しさよりも、「未来に耐えるかどうか」。それが、私の最上位の判断基準です。
2027年の法改正に向けて、今から準備を始めましょう。もしこの記事を読んで「相談してみたい」と思われた方は、ぜひお気軽にご連絡ください。一緒に、未来に耐える障害者雇用を作りましょう。
参考記事:https://fukushishimbun.com/series06/44379
動画も公開しています。
企業の「困った」を解決!障害者雇用サポート塾
https://youtube.com/channel/UC4CPSnfSxvaVCEA902K9gfQ?si=NCauCnBZAPc7U-Fh

