障害者雇用とリモートワーク|法定雇用率2.7%時代に企業が取るべき戦略【2026年最新調査】

〇英国の衝撃的調査データが示す、障害者雇用の危機

2026年2月、英ガーディアン紙が報じた調査結果が、世界中の人事・労務担当者に衝撃を与えています。ランカスター大学とマンチェスター・メトロポリタン大学が2年間にわたって実施した大規模調査により、「リモートワーク機会の減少が、障害者の雇用機会を深刻に脅かしている」ことが明らかになりました。

日本でも2026年7月から障害者法定雇用率が2.7%に引き上げられ、従業員100人以上の企業にとって障害者雇用は喫緊の課題です。この英国の事例は、日本企業が今後どのような雇用戦略を取るべきか、重要な示唆を与えてくれます。

〇数字が物語る深刻な現実―障害者の8割が「在宅勤務は必須」

ランカスター大学の調査では、1,200人以上の障害者にインタビューを実施。その結果、働く意欲のある障害者の**80%以上が「在宅勤務へのアクセスは必須または非常に重要」**と回答しました。

さらに注目すべきは、以下のデータです:
– 46%が完全リモート勤務を希望(特に障害のある女性や介護者)
– わずか1.6%のみが「在宅勤務をやめたい」と回答
– 完全リモート勤務者の64%が「身体的健康が改善した」と実感

これは単なる「働き方の好み」ではありません。多くの障害者にとって、リモートワークは「働くか、働けないか」の分水嶺なのです。

〇英国求人市場の現実―リモート求人は半減、障害者失業率は倍増

一方、英国の求人市場は逆方向に進んでいます。求人サイトAdzunaのデータ分析によると:

▶ 完全リモート求人の割合
– パンデミック時(2020-21年):8.7%
– 現在(2024-25年):4.3%(半減)

▶ ハイブリッド求人の割合
– 2024-25年:13.5%(成長が停滞)

この「オフィス回帰」トレンドが、障害者雇用に深刻な影響を与えています:

▶ 障害者失業率:9.2%(全体平均4.4%の2倍以上)
▶ 失業中の障害者数:54.7万人(前年比11万人増)

英国の労働市場全体で失業率が上昇している中、障害者の失業率上昇スピードは非障害者を大きく上回っています。

〇当事者の声―「リモートワークがなければ、私は働けない」

調査に参加した20代のヴェラさんは、ロンドンの医療関連企業で働いています。多発性硬化症(MS)の治療として幹細胞移植を受け、現在は在宅勤務で週4日勤務をしています。

彼女はこう語ります:

「リモートワークがなければ、私は雇用を維持できません。最前線の役割には戻れませんでしたが、在宅勤務のおかげで働き続けられています。認知疲労をコントロールし、昼休みに休息を取ることで、生産性を維持できるのです。

でも、完全リモートの求人があまりにも少なく、身動きが取れないと感じています。現実的に応募できるのは完全リモートの求人だけなのに、それではキャリアアップの選択肢が限られてしまいます」

Work FoundationとMS Societyの別の調査でも、MS患者の47%が「通勤がほとんどまたは全く必要ない職場」を求めていることが明らかになっています。

〇リモートワークがもたらす健康効果とパフォーマンス向上

調査では、リモートワークが障害者の健康とパフォーマンスに与える具体的な効果も明らかになりました:

✅ 身体的健康の改善
– 完全リモート勤務者:64%が改善を実感
– 週の半分未満の在宅勤務者:31%にとどまる

✅ メンタルヘルスの向上
– 通勤ストレスの軽減
– 自分のペースでの休息が可能

✅ ワークライフバランスの改善
– 医療機関への通院調整が容易
– 家族ケアとの両立

✅ 生産性の維持・向上
– 認知疲労のコントロール
– 環境調整による集中力向上

主任研究者のポーラ・ホランド博士は、こう指摘します:
「パンデミック以降のリモート・ハイブリッド勤務の拡大は、多くの障害者の就業体験を改善しました。障害のある従業員は、メンタル・身体両面での健康改善、ワークライフバランス向上、生産性向上といった大きな恩恵を受けています。

しかし、企業がオフィス回帰を義務化することで、完全リモートの機会は急減しており、これが一部の障害者労働者の就業継続や職場復帰を妨げる可能性があります。政府が『人々を働かせたい』と考えている時に、障害者労働者は『適切な在宅勤務の役割へのアクセスが、働けるか働けないかの違いを生む』と報告しているのです」

〇日本企業への示唆―法定雇用率2.8%時代の戦略的対応

この英国の調査結果は、日本企業にどのような示唆を与えるのでしょうか?

▼ 日本の現状と課題

2026年7月から、障害者法定雇用率が2.5%から2.7%に引き上げられます。従業員100人以上の企業は、最低でも2.8人(小数点以下切り捨て)の障害者を雇用する義務があります。

しかし、多くの企業が「適切な職域が見つからない」「障害者が長く働ける環境整備が難しい」といった課題に直面しています。障害者雇用率未達成企業には、不足1人当たり月額5万円の納付金が課されるため、経済的負担も無視できません。

▼ リモートワークを戦略的に活用する5つのメリット

英国の事例を踏まえると、日本企業がリモート・ハイブリッドワークを障害者雇用戦略に組み込むことで、以下のメリットが期待できます:

1. 雇用可能な人材プールの拡大
通勤困難な障害者、地方在住の障害者など、これまでアクセスできなかった優秀な人材を採用できます。

2. 合理的配慮の実現が容易に
在宅環境であれば、個々の障害特性に合わせた環境調整(照明、音、温度など)が比較的容易です。

3. 定着率の向上
健康管理がしやすく、通勤負担がないため、長期就業が期待できます。

4. 生産性の向上
障害者本人のペースで働ける環境は、パフォーマンス発揮につながります。

5. 全従業員への波及効果
障害者のために整備した柔軟な働き方は、育児・介護中の従業員、持病のある従業員など、すべての従業員の働きやすさ向上につながります。

〇実践的アプローチ―障害者雇用×リモートワークを成功させる5つのステップ

では、具体的にどのように進めればよいのでしょうか?障害者雇用コンサルタントとして、以下のステップをお勧めします:

ステップ1:リモート可能な職域の棚卸し
まずは自社の業務を見直し、「出社が本当に必要な業務」と「リモートで完結できる業務」を明確に分けましょう。経理、総務、人事、データ入力、カスタマーサポート、Webデザインなど、多くの職種がリモート対応可能です。

ステップ2:障害種別ごとのニーズ理解
– 身体障害:通勤困難、車椅子利用など→完全リモートが有効
– 精神障害:対人ストレス、通勤負担→ハイブリッドまたは完全リモート
– 知的障害:環境の一貫性→オフィス勤務+一部在宅の組み合わせ
– 発達障害:感覚過敏、集中環境→リモートが高パフォーマンス発揮に有効

ステップ3:段階的導入と試行期間の設定
いきなり完全リモートではなく、週1~2日の在宅勤務から始め、本人の適応状況を見ながら拡大していく柔軟なアプローチが効果的です。

ステップ4:コミュニケーション環境の整備
Zoom、Teams、Slackなどのツール活用はもちろん、定期的な1on1ミーティングで孤立感を防ぎ、業務上の困りごとを早期にキャッチする体制を作ります。

ステップ5:成果評価基準の明確化
「出社しているかどうか」ではなく、「何を達成したか」で評価する仕組みに転換します。これは障害者雇用に限らず、すべてのリモートワーカーに共通する重要ポイントです。

〇誤解を解く―「リモートワークは甘え」という固定観念を超えて

日本企業の中には、いまだに「リモートワークは甘え」「対面でないと仕事にならない」という固定観念が根強く残っています。しかし、英国の調査が示すのは、まったく逆の事実です。

リモートワークは、障害者にとって:
– 「楽をするため」ではなく「能力を最大限発揮するため」の環境調整
– 「優遇措置」ではなく「合理的配慮」の具体的実践
– 「働けない言い訳」ではなく「働き続けるための必須条件」

実際、完全リモートで働く障害者の生産性向上や健康改善が数値で証明されています。企業にとっても、優秀な人材を確保し、長期的に活躍してもらうための「投資」なのです。

〇英国下院の提言と世界的トレンド

英国下院の最近の報告書は、政府に対して「障害者雇用促進のために、リモートおよびハイブリッド勤務を優先すべき」と提言しています。

これは英国に限った動きではありません:
– 米国:ADA(障害を持つアメリカ人法)に基づき、リモートワークを合理的配慮の一環として位置づけ
– EU:障害者の雇用機会均等のため、柔軟な働き方を推奨
– 豪州:Disability Employment Services(DES)でリモートワーク支援を強化

グローバルスタンダードとして、「インクルーシブな職場=柔軟な働き方が選択できる職場」という認識が広がっているのです。

〇社会保険労務士としての提言―法定雇用率達成を「義務」から「機会」へ

私は障害者雇用コンサルタントとして、多くの企業の人事担当者から相談を受けます。その多くが「法定雇用率を達成しなければならないが、どうすればいいかわからない」という悩みです。

しかし、視点を変えてみてください。

障害者雇用は、「義務だから仕方なくやるもの」ではありません。**多様な人材が活躍できる組織づくりの、大きなチャンス**なのです。

リモート・ハイブリッドワークを戦略的に活用することで:
✅ これまでアクセスできなかった優秀な人材を採用できる
✅ 社員の定着率が向上し、採用コストが削減できる
✅ 柔軟な働き方が全社員に広がり、組織の魅力が向上する
✅ イノベーションが生まれやすい多様性のある組織になる
✅ ESG経営、SDGsへの取り組みとして対外的評価が高まる

英国の調査が示すように、リモートワークの縮小は障害者雇用の大きな障壁になります。逆に言えば、リモートワークを積極的に取り入れることが、障害者雇用成功の鍵になるのです。

〇今こそ、柔軟な働き方で「誰もが活躍できる職場」を

2026年、世界は大きな転換点にあります。英国では「オフィス回帰」が障害者雇用を脅かし、一方で日本では法定雇用率の引き上げが進んでいます。

この状況下で、企業に求められるのは「発想の転換」です。

リモート・ハイブリッドワークは、単なる「働き方の選択肢」ではありません。障害者が能力を最大限発揮し、長く働き続けるための「戦略的ツール」なのです。

そしてそれは、障害の有無に関わらず、すべての従業員にとって働きやすい職場につながります。育児中の社員、介護中の社員、持病のある社員、遠方に住む社員―誰もが自分らしく働ける環境こそが、これからの時代に選ばれる企業の条件です。

法定雇用率2.8%の達成に悩む企業の皆さま、ぜひ一度、リモートワーク活用という視点から障害者雇用戦略を見直してみてください。

「働きたい」という意欲を持つ障害者と、「優秀な人材が欲しい」という企業。その橋渡しをするのが、柔軟な働き方なのです。

私たち社会保険労務士・障害者雇用コンサルタントは、そのお手伝いをさせていただきます。まずはお気軽にご相談ください。

【参考情報】
▶ 元記事(英語・The Guardian):
https://www.theguardian.com/world/2026/feb/21/decline-in-remote-jobs-risks-shutting-disabled-people-out-of-work-study-finds

▶ 厚生労働省「障害者雇用率制度」:
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/

【この記事のまとめ】
□ 英国調査で障害者の8割が「在宅勤務は必須」と回答
□ 完全リモート求人は半減、障害者失業率は全体の2倍
□ リモート勤務で64%が身体的健康改善を実感
□ 日本でも法定雇用率2.8%達成にリモート活用が有効
□ 柔軟な働き方は全従業員の働きやすさ向上につながる

【執筆者プロフィール】
障害者雇用コンサルタント・社会保険労務士
従業員100人以上の企業を中心に、障害者雇用の戦略立案から実務支援まで幅広くサポート。「義務から機会へ」をモットーに、企業と障害者双方にとってWin-Winの雇用環境づくりを目指しています。

動画も公開しています。
企業の「困った」を解決!障害者雇用サポート塾
https://youtube.com/channel/UC4CPSnfSxvaVCEA902K9gfQ?si=NCauCnBZAPc7U-Fh