「会社に言えない発達障害」が示す障害者雇用の構造的課題──2026年法改正を前に企業が取り組むべき本質的対策

〇障害者雇用における「開示の壁」という本質的問題

2026年3月、毎日新聞が「会社に言えない私の発達障害 たどり着いた職場 明暗分けたのは」という記事を配信しました。発達障害を持つ当事者が、障害者手帳を取得しながらも職場で障害を開示できない葛藤を描いた内容です。

この記事が提起しているのは、障害者雇用における最も本質的な課題です。それは「制度はあるのに機能しない」という構造的矛盾です。

私は社会保険労務士として、また人工透析患者として10年間勤務した経験を持つ当事者として、この問題を「制度と現場のすき間」と呼んでいます。そしてこのすき間こそが、2026年7月の法定雇用率2.7%引き上げを前に、企業が最も向き合うべき課題だと確信しています。

〇 障害者雇用促進法と法定雇用率引き上げの背景

・ 2026年7月に迫る法定雇用率2.7%への引き上げ

現在、民間企業の障害者法定雇用率は2.5%です。しかし2026年7月1日からは2.7%へと引き上げられ、従業員37.5人以上のすべての企業が障害者雇用義務の対象となります。

これは単なる数値の変更ではありません。これまで「大企業の課題」だった障害者雇用が、中小企業を含むすべての事業主の経営課題になるということです。

・ 法定雇用率未達成企業が直面するペナルティ

法定雇用率を達成できない企業には、不足1人あたり月額5万円の障害者雇用納付金が課されます(従業員100人超の企業)。さらに、厚生労働省からの行政指導や企業名公表といった社会的制裁のリスクもあります。

つまり企業には「数を達成する圧力」がかかり続けているのです。

〇 「会社に言えない発達障害」が示す構造的問題

・ 制度と現実のギャップ:配慮を求めることへの躊躇

障害者雇用促進法では、企業に対して「合理的配慮の提供義務」が定められています。にもかかわらず、当事者は「会社に言えない」と感じている。

なぜでしょうか?

それは、多くの企業が「配慮すること」を「特別扱い」と捉え、結果として当事者を「戦力外」と位置づけてしまうからです。配慮を求めることが、評価の低下や昇進の機会喪失につながる。そうした暗黙の構造が、開示を阻んでいます。

・ 善意に依存した雇用の脆弱性

私が現場でよく目にするのは、「理解のある上司」に依存した障害者雇用です。その上司がいる間は機能しますが、異動や退職とともに支援体制が崩壊する。これでは未来に耐えません。

人の善意や感情を前提にした仕組みは、長期的に持続しないのです。

〇 障害者雇用を「戦力化」する構造設計の考え方

・ 配慮ではなく「強みを活かす業務設計」

私が提唱しているのは、「配慮する雇用」から「戦力化する雇用」への転換です。

配慮は前提として組み込みつつも、本人の強みを最大限に活かせる業務を設計する。たとえば、発達障害の特性として「細部へのこだわり」や「ルーチンワークへの集中力」がある場合、それを強みとして活かせるポジションを用意するのです。

・ 評価制度の再設計:開示が不利にならない仕組み

重要なのは、障害を開示することが評価上の不利益にならない制度設計です。

具体的には、以下のような取り組みが有効です。

– 業務の標準化と可視化:誰が見ても評価基準が明確であること
– 強みベースの目標設定:できないことではなく、できることを軸にした評価
– *定期的なフィードバック:配慮の調整を柔軟に行える対話の場

こうした構造があれば、当事者は「言うか言わないか」で悩む必要がなくなります。

・ 回復可能性を担保した職場環境

私が最も重視するのは「回復可能性」です。

たとえ一時的に体調を崩したり、パフォーマンスが低下したりしても、復帰できる道筋が明確に存在すること。これが、長期的に安心して働ける職場の条件です。

そのためには、人事制度だけでなく、現場のマネジメント層への教育と、復職プログラムの整備が不可欠です。

〇 中小企業における障害者雇用の現実的戦略

・ 37.5人以上の企業が直面する新たな義務

2026年7月以降、従業員37.5人以上の企業にも障害者雇用義務が発生します。これまで「うちには関係ない」と考えていた中小企業が、突然当事者になるのです。

しかし中小企業には、大企業とは異なる制約があります。人事部門が小規模であり、専門的なノウハウも不足している。だからこそ、効率的で現実的な戦略が必要です。

・ 外部専門家との連携による戦力化支援

私が中小企業にお勧めしているのは、外部の障害者雇用コンサルタントや社会保険労務士との連携です。

制度設計から採用、定着支援まで、専門家のサポートを受けることで、現場の負担を最小限に抑えながら、未来に耐える雇用を実現できます。

・ 就労支援機関との協働:採用と定着の両輪

また、就労移行支援事業所やジョブコーチとの連携も有効です。採用時のマッチング精度を高めるだけでなく、入社後の定着支援においても、外部の専門的な視点が職場を支えます。

〇 2026年法改正を「数の達成」で終わらせないために

・ 短期目標と長期戦略の両立

企業が今直面しているのは「2026年7月までに法定雇用率を達成する」という短期目標です。しかし、そこで終わらせてはいけません。

本当に問われているのは、「未来に耐える雇用の構造を設計できるか」という長期的な組織能力です。

・ 嫌われる覚悟と結果責任

障害者雇用の構造改革は、現場から抵抗を受けることもあります。「余計な仕事が増える」「配慮が面倒だ」という声が上がるかもしれません。

しかし、専門家の役割は短期的な称賛を得ることではなく、長期的に壊れない選択を取ることです。嫌われ役を引き受けることも、時には必要です。

私は、その結果責任を引き受ける覚悟を持って、企業の障害者雇用をサポートしています。

〇開示が不利にならない職場を構造で実現する

「会社に言えない発達障害」──この言葉が示しているのは、制度だけでは人は救われないという事実です。

必要なのは、開示が不利にならない構造であり、強みを活かせる業務設計であり、回復可能性を担保した評価制度です。そしてそれは、人の善意ではなく、仕組みとして実装されなければなりません。

2026年7月まで、残り4か月です。今こそ、数を追うだけの雇用から、構造で支える雇用へと転換する時期です。

あなたの会社は、障害を開示しても戦力として機能できる構造を持っていますか?

もしまだであれば、今すぐ専門家に相談することをお勧めします。未来に耐える障害者雇用は、今日の設計から始まります。

参考記事
毎日新聞「会社に言えない私の発達障害 たどり着いた職場 明暗分けたのは」
https://mainichi.jp/articles/20260303/k00/00m/040/016000c

執筆者プロフィール
若林 忠旨(わかばやし・ただむね)
社会保険労務士法人東京中央エルファロ 社会保険労務士、障害者雇用戦略アドバイザー
人工透析患者として10年勤務した経験と、外部CHROとしての経営者視点を融合し、「経営戦略」としての障害者雇用を提案。制度と現場の”すき間”を埋め、戦力化を実現する仕組みづくりを実践的に支援。

動画も公開しています。
企業の「困った」を解決!障害者雇用サポート塾
https://youtube.com/channel/UC4CPSnfSxvaVCEA902K9gfQ?si=NCauCnBZAPc7U-Fh