「4割が法改正を知らない」「66%が採用予定なし」が示す障害者雇用の構造的課題──担当者の想いを組織の実行力につなげる方法

〇現場の想いと組織の実行力の深刻なギャップ

2026年2月、株式会社スタートラインが「障害者雇用の開始に関する実態調査」の結果を公表しました。法定雇用率の適用対象でありながら現在「障害者雇用0人」の企業に勤務する人事担当者100名を対象にした調査です。

この調査結果は、日本企業が障害者雇用において直面している本質的な課題を浮き彫りにしています。

【調査結果の主なポイント】
– 2026年7月の法定雇用率2.7%引き上げを、約4割が「知らない」
– 66%の企業が「採用予定なし」という停滞状況
– 一方、担当者個人の約半数は「雇用を開始したい」との意欲を持つ
– 52%が情報収集などの具体的行動を経験済み

この数字が示しているのは、現場の想いと組織の実行力の間に深刻なギャップが存在するという事実です。

〇 「4割が法改正を知らない」という衝撃

・ 2026年7月まで残り4カ月という現実

2026年7月1日、民間企業の障害者法定雇用率は現行の2.5%から2.7%へ引き上げられます。これにより、従業員37.5人以上の企業すべてが障害者雇用義務の対象となります。

つまり、あと4カ月で重要な制度改正が実施されるのです。

しかし、調査では約4割の人事担当者がこの制度改正を「把握していない」と回答しました。

・ 情報が届いていない組織の脆弱性

私は社会保険労務士として、この結果に強い危機感を抱きます。

なぜなら、制度情報が担当者に届いていないということは、組織の情報共有システムが機能していないということだからです。

法定雇用率の引き上げは、厚生労働省が数年前から公表している既定路線です。それにもかかわらず、4割の担当者が「知らない」という状況は、以下の問題を示唆しています:

1. 経営層が障害者雇用を優先課題と認識していない
経営層が重要と考えている情報は、確実に現場に降りてきます。逆に言えば、降りてこない情報は、経営層が重視していない証拠です。

2. 人事部門と経営層のコミュニケーション不足
人事担当者が法令遵守の責任を負っているにもかかわらず、必要な情報にアクセスできていない。これは、組織のコミュニケーション構造の欠陥です。

3. 外部情報の収集体制の不備
法改正などの重要情報を定期的に収集・共有する仕組みがない。属人的な情報収集に依存している。

このような組織は、障害者雇用だけでなく、あらゆる法令遵守において後手に回るリスクがあります。

〇 「66%が採用予定なし」という停滞状況

・ 法定雇用率引き上げへの対応の遅れ

調査では、「2026年7月の法定雇用率引き上げに向けて障害者雇用を開始する予定はありますか」という問いに対して、以下の結果が出ています:

– 「開始したいが、具体的な予定は立っていない」:30%
– 「直近の開始は難しいと思う」:26%
– 「開始する予定はない」:10%

合計すると、66%の企業が”採用の予定はなし”という状況です。

法定雇用率の引き上げまで残り4カ月というタイミングで、この数字は極めて深刻です。

・ 未達成企業が直面するペナルティ

法定雇用率を達成できない企業には、以下のペナルティが課されます:

1. 障害者雇用納付金の支払い
不足1人あたり月額5万円(従業員100人超の企業)

2. 行政指導
雇用率未達成が続く場合、厚生労働省から改善指導が入る

3. 企業名の公表
改善が見られない場合、企業名が公表される社会的制裁

つまり、「採用予定なし」という選択は、法令違反のリスクと経済的損失を抱え続けることを意味します。

〇 「担当者の半数は開始したい」という前向きな想い

・ 現場には「やりたい」という意欲がある

調査で最も注目すべきは、この数字です。

「担当者として障害者雇用を開始したいというお考えはありますか」という問いに対して、約半数が「開始したい」と回答しました。

さらに、「障害者雇用を実現するために具体的な行動(検討や準備など)をしたことはありますか」という問いには、52%が「ある」と回答しています。

つまり、担当者は以下の状態にあります:

– やりたいと思っている
– 情報収集もしている
– 具体的な行動も起こしている

それなのに、組織としての実行フェーズに進めていない。

・ 「組織の実行力不全」という本質的課題

この構造こそが、日本企業における障害者雇用の最大の課題だと、私は考えています。

問題は、担当者の意欲や能力ではありません。組織が、現場の想いを実行につなげる力を持っていないのです。

具体的には、以下の要因が考えられます:

1. 経営層の意思決定の遅れ
担当者が提案しても、経営層が決断しない

2. 予算の確保ができない
障害者雇用に必要な予算が承認されない

3. 受け入れ部署の理解が得られない
現場が「自分たちの負担が増える」と反発する

4. 完璧主義による足踏み
「中途半端な受け入れはできない」という責任感が、行動を止めている

〇 「中途半端な受け入れはできない」という責任感の二面性

・ 真摯さゆえの足踏み

調査を実施したスタートラインの障害者雇用エバンジェリストは、66%の企業が「採用予定なし」と回答した背景について、以下のように分析しています:

> 担当者の方々の「中途半端な受け入れはできない」という強い責任感が隠れています。これは障害者雇用に真摯に向き合おうとしているからこその”足踏み”と言えます。

私はこの分析に深く共感します。

多くの担当者は、障害者雇用を「数合わせ」や「義務」として捉えているのではありません。むしろ、「受け入れる以上は、ちゃんとサポートしたい」「戦力として活躍してもらいたい」という真摯な想いを持っています。

だからこそ、「完璧な準備が整うまで待ちたい」と考えてしまう。

・ しかし、完璧を待つことは未来に耐えるのか?

私が提唱する「未来耐久性」の視点から見ると、この「完璧主義による足踏み」には重大な問題があります。

1. 完璧な準備は永遠に来ない
どれだけ準備しても、実際に受け入れてみなければわからないことは山ほどあります。完璧を待つことは、事実上「やらない」という選択です。

2. 時間のコストが膨大
準備に時間をかけている間に、法定雇用率未達成のペナルティは蓄積され続けます。また、市場では他社が先に動き、優秀な障がい者人材を確保していきます。

3. 担当者のモチベーション低下
「やりたい」と思っている担当者が、組織の意思決定の遅さに疲弊し、諦めてしまうリスクがあります。

未来に耐える選択とは、「完璧な準備が整うまで待つ」ことではありません。むしろ、「是正可能な構造を持ちながら、まず始める」ことです。

〇 担当者の想いを組織の実行力につなげる3つの構造設計

1. 制度情報の共有:「知らない」を解消する仕組み

まずは、4割の担当者が法改正を「知らない」という状況を解消する必要があります。

具体的には:

定期的な法令情報の収集と共有
– 厚生労働省のウェブサイトや専門家からの情報を定期的にチェック
– 月次の人事ミーティングで法改正情報を共有
– 経営層への報告を義務化

社内の共通認識づくり
– 法定雇用率の意味と企業への影響を経営層に説明
– 各部署に障害者雇用の必要性を周知
– 全社的な優先課題として位置づける

2. 職域の整理:受け入れ部署の心理的ハードルを軽減

「どの部署で、どんな仕事をしてもらうか」が明確でないと、現場は不安を抱えます。

具体的には:

業務の棚卸しと切り出し
– 各部署で現在誰がやっているかわからない「グレーゾーン業務」を可視化
– 定型業務、ルーチンワーク、データ入力など、明確にルール化できる業務を特定
– 障がい特性に合わせた業務配分を設計

受け入れ部署の選定と準備
– 受け入れ部署の管理職に、障害者雇用の意義と方法を研修
– 現場の不安や疑問に丁寧に答える
– 「負担が増える」のではなく「業務効率が上がる」という視点を共有

3. 定着支援の仕組み化:個人に依存しない組織のシステム

入社後のサポートを、特定の担当者の善意や能力に依存させてはいけません。

具体的には:

定期的なフィードバックの場
– 週次または月次で1on1を実施
– 困りごとや配慮事項を早期に把握・調整
– 上司、同僚、人事の三者でサポート体制を構築

外部専門家との連携
– 就労移行支援事業所やジョブコーチと連携
– 定期的な訪問支援を受ける
– トラブル時の相談窓口を確保

回復可能性の担保
– 体調不良時の休職・復職ルールを明確化
– 短時間勤務や在宅勤務などの柔軟な働き方を用意
– 「一度失敗したら終わり」ではなく、「何度でもやり直せる」構造を作る

〇 2026年7月まで残り4カ月──今すぐ始めるべき理由

・ 時間切れが迫っている

法定雇用率2.7%への引き上げまで、残り4カ月です。

障害者の採用には、通常以下の時間がかかります:

– 求人作成・公開:1〜2週間
– 応募受付・書類選考:2〜4週間
– 面接・内定:2〜4週間
– 入社準備・研修:1〜2カ月

つまり、最短でも3〜4カ月は必要です。今から動き始めても、7月に間に合うかどうかギリギリのタイミングです。

・ 「知らない」「予定なし」から一歩踏み出す

調査結果が示しているのは、多くの企業が「知らない」「予定なし」という状態で停滞しているという現実です。

しかし、担当者の約半数は「やりたい」と思い、52%が情報収集を始めています。この前向きな想いを、組織の実行力につなげる。それが、今求められています。

・ 完璧を待つのではなく、是正可能な構造で始める

繰り返しますが、完璧な準備は永遠に来ません。

必要なのは、「是正可能な構造」を持ちながら、まず始めることです。

– 最初は1人からでいい
– 業務は走りながら調整すればいい
– トラブルが起きたら、外部専門家に相談すればいい

重要なのは、「回復可能性」を担保した設計であることです。一時的に失敗しても、やり直せる道筋があれば、未来に耐える雇用になります。

〇担当者の想いを実行につなげるのは経営層の覚悟

この調査が示しているのは、担当者の意欲や能力の問題ではありません。組織の実行力の問題です。

担当者は「やりたい」と思っている。情報収集もしている。しかし、組織が動かない。

この状況を打破するには、経営層の覚悟が不可欠です。

そして、その覚悟を実行に移すためには、専門家による構造設計の支援が必要です。

私は社会保険労務士として、また障害者雇用戦略アドバイザーとして、「完璧な準備」よりも「是正可能な構造」を重視しています。

未来に耐える障害者雇用とは、今の同意や空気ではなく、将来の持続性と回復可能性を優先することです。

2026年7月まで、残り4カ月。今こそ、担当者の「やりたい」を組織の実行力につなげる時です。

あなたの会社は、担当者の想いを実行に移せる体制がありますか?

もし「まだ準備ができていない」と感じているなら、今すぐ専門家に相談することをお勧めします。完璧な準備を待つのではなく、是正可能な構造を持ちながら、まず一歩を踏み出す。それが、未来に耐える選択です。

参考記事
PR TIMES「法定雇用率2.7%引き上げ、4割が「知らない」と回答。障害者雇用0人企業の66%が「採用予定なし」~現場の想いと組織の実行力に深刻なギャップ~」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000261.000031296.html

執筆者プロフィール
若林 忠旨(わかばやし・ただし)
社会保険労務士法人東京中央エルファロ 社会保険労務士、障害者雇用戦略アドバイザー
人工透析患者として10年勤務した経験と、外部CHROとしての経営者視点を融合し、「経営戦略」としての障害者雇用を提案。制度と現場の”すき間”を埋め、戦力化を実現する仕組みづくりを実践的に支援。

動画も公開しています。
企業の「困った」を解決!障害者雇用サポート塾
https://youtube.com/channel/UC4CPSnfSxvaVCEA902K9gfQ?si=NCauCnBZAPc7U-Fh