企業の人事担当者や経営層の皆さま、こんな悩みはありませんか?

「障害者雇用率を達成しなければならないが、何から手をつければいいのか分からない」
「法定雇用率の引き上げに対応できるか不安」
「せっかく雇用しても、職場に定着しない」
「合理的配慮と言われても、具体的にどこまでやればいいのか判断できない」

これらは、私が障害者雇用コンサルティングの現場で日々お聞きする、企業のリアルな声です。

そして今、世界では障害者雇用をめぐる潮流が大きく変わりつつあります。それは、「障害者を雇用すること」から一歩進んで、「障害のある人が顧客として、従業員として、社会に完全に参加できる環境を企業が整備すること」が法律で義務化され、罰則付きで求められる時代への移行です。

今回は、2025年10月にTechCrunchで報じられた、アイルランド発のスタートアップ「DevAlly」の資金調達ニュースを通じて、欧州で始まった「アクセシビリティ革命」と、それが日本企業の障害者雇用にどう関わってくるのかを、社会保険労務士の視点から解説します。

1. 欧州アクセシビリティ法(EAA)とは?――罰金付きの”新常識”

2025年6月、EU(欧州連合)において欧州アクセシビリティ法(European Accessibility Act / EAA)が施行されました。

この法律は、EU域内の4.5億人の消費者に商品やサービスを提供するすべての企業に対し、以下のような義務を課しています。

– Webサイト、Eコマースプラットフォーム、銀行アプリなどを、障害者が利用可能な設計にすること
– 動画には字幕をつけること
– スクリーンリーダー(音声読み上げ機能)に対応すること
– 色覚障害者にも識別できる配色を採用すること
– 顧客からのアクセシビリティに関する苦情を追跡・改善する仕組みを持つこと

違反した企業には、巨額の罰金が科されます。しかも、複数の加盟国で事業を展開する企業の場合、各国で個別に罰金を科される可能性があります。

EAA施行前、多くの企業が対応に追われました。しかし驚くべきことに、DevAllyの創業者によれば、大企業でさえ施行の2週間前になって「この法律のこと、知らなかった!」と駆け込んできたケースが多発したそうです。

これは、数年前に施行されたGDPR(EU一般データ保護規則)と同じ構図です。グローバル企業にとって、”知らなかった”では済まされない、コンプライアンス対応が急務となっています。

2. DevAllyとは?――AIで企業のアクセシビリティを自動診断

そんな中、注目を集めているのがアイルランド発のスタートアップ「DevAlly(デヴァリー)」です。

2024年に創業した同社は、企業のWebサイトやアプリのアクセシビリティをAIで自動診断し、問題箇所を特定・改善提案するサービス**を提供しています。

従来、アクセシビリティ監査は人間のコンサルタントが手作業で行っていましたが、デジタルプロダクトの開発スピードが速い現代では、到底追いつきません。DevAllyは、AI技術とアクセシビリティ専門の大規模言語モデル(LLM)を活用することで、テストと課題追跡を自動化し、製品開発ライフサイクルに統合する仕組みを構築しました。

このアプローチは、サイバーセキュリティ・コンプライアンス企業「Vanta」(企業価値4,150億円超)が辿った道と酷似しており、投資家からも高く評価されています。

2025年10月、DevAllyは約2.5億円(200万ユーロ)のプレシード資金調達に成功。ベルギーのファンド「Miles Ahead Capital」主導のもと、アイルランドの国家機関や欧州のエンジェル投資家が参加しました。

調達した資金で、同社はチームを5人から15人に拡大し、米国サンフランシスコでの営業活動も本格化させる予定です。

3. 世界のアクセシビリティ対応、現状は?

では、世界の企業はどの程度アクセシビリティに対応できているのでしょうか?

UX/UIデザインエージェンシー「Tenscope」の調査によると、米国の主要1,000サイトのうち94%が、基本的なアクセシビリティ基準を満たしていないことが明らかになりました。

特に旅行業界のパフォーマンスが最悪で、多くのユーザーが問い合わせフォーム、アカウント作成、オンライン購入といった基本機能さえ完了できない状況です。

実際、スペインの航空会社「Vueling」は、Webサイトのアクセシビリティ不備により罰金を科されています。EAA施行後、こうした事例は増加すると見られています。

4. アクセシビリティは「ビジネスチャンス」である

ここで重要なのは、アクセシビリティ対応を「コスト」や「社会貢献」として捉えるのではなく、「ビジネスチャンス」として捉え直すことです

AllyのCEOであるコーマック・チショルム氏は、こう語ります。

> 「良いデザインとは、アクセシブルなデザインである」

その理由は明快です。

▼ 障害者市場の経済規模
– 世界人口の**5人に1人(約20%)**が何らかの障害を持っている
– 障害者とその家族の可処分所得は、年間8兆ドル(約1,200兆円)に達する

▼ 「状況的な障害」の存在
障害は、身体的・恒久的なものだけではありません。
– 強い日差しでスマホ画面が見えにくい
– 赤ちゃんを抱いていて片手しか使えない
– 騒音の中で音声が聞き取れない

こうした「状況的な障害」は、誰にでも起こり得ます。つまり、アクセシブルなデザインは、すべてのユーザーにとって使いやすいデザインであり、顧客満足度とコンバージョン率の向上に直結するのです。

実際、Netflixの字幕機能は、もともと聴覚障害者のために開発されましたが、今や多くの健聴者も「電車内で音を出さずに動画を見たい」という理由で利用しています。これこそが、アクセシビリティが生み出す「すべての人への価値」です。

5. 日本企業への示唆――障害者雇用の”次のステージ”

さて、ここまで欧州の動きを見てきましたが、これが日本企業にどう関わってくるのでしょうか?

▼ 日本でも進む法改正
日本でも、障害者雇用促進法に基づき、法定雇用率が段階的に引き上げられています。2024年4月には2.5%、2026年7月には2.7%へと引き上げられる予定です。

また、2024年4月からは、合理的配慮の提供が義務化されました。これにより、企業は障害者が働きやすい環境を整える法的義務を負うことになりました。

▼ グローバル展開する企業は要注意
もし貴社が欧州市場に進出している、あるいは今後進出を検討しているなら、EAAへの対応は避けて通れません。Webサイトやアプリ、Eコマース機能がアクセシビリティ基準を満たしていなければ、罰金のリスクがあります。

▼ 採用競争力の強化
障害者雇用に積極的な企業は、多様な人材を受け入れる文化があると評価され、優秀な人材(障害の有無を問わず)からの応募が増える傾向があります。DEI(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)への取り組みは、採用ブランディングにおいても重要な要素です。

実際、2025年9月のForbes記事によれば、**従業員の76%が「DEIを支援し続ける企業に長期的に留まりたい」**と回答しています。

▼ 顧客基盤の拡大
障害者が利用しやすい製品・サービスを提供することは、新たな顧客層の開拓につながります。高齢化が進む日本において、視覚・聴覚・身体機能に配慮した設計は、シニア層の利用促進にも直結します。

6. 社労士として企業に伝えたいこと

私は、障害者雇用コンサルティングを専門とする社会保険労務士として、多くの企業さまの支援をしてきました。

その中で強く感じるのは、「障害者雇用=法定雇用率を満たすための義務」という固定観念を、いかに解きほぐすかが最大の課題だということです。

しかし今、世界は大きく動いています。

欧州では、アクセシビリティが「あったらいいもの」から「なければ罰せられるもの」へと変わりました。そして、先進的な企業は、それをコストではなく**投資機会**として捉えています。

日本でも、障害者雇用の次のステージが始まっています。それは、

– 採用・定着・活躍の三位一体の支援
– 合理的配慮を組織文化に組み込む取り組み
– 障害の有無に関わらず、誰もが働きやすい職場づくり

です。

私たち社労士の役割は、法令遵守のサポートにとどまりません。企業が障害者雇用を通じて組織を強くし、ビジネスを成長させるための、戦略的パートナーでありたいと考えています。

7. まとめ――今こそ、障害者雇用を「攻めの経営」に

DevAllyの成功は、アクセシビリティ対応が単なるコンプライアンスではなく、**巨大な市場機会である**ことを象徴しています。

障害者雇用においても、同じことが言えます。

法定雇用率の達成、合理的配慮の提供は、あくまでスタートライン。その先にあるのは、多様な人材が活躍し、イノベーションを生み出し、企業価値を高める組織づくりです。

もし貴社が、

– 障害者雇用に課題を感じている
– 合理的配慮の具体的な進め方が分からない
– グローバル展開に伴うアクセシビリティ対応が必要
– 障害者雇用を「守り」から「攻め」の施策に転換したい

とお考えなら、ぜひ一度ご相談ください。貴社の状況に合わせた、実効性のある支援をご提案いたします。

世界は動いています。そして、日本企業にも必ずその波は届きます。

今こそ、障害者雇用を企業成長の柱に位置づける、絶好のタイミングです。

【参考記事】
TechCrunch(2025年10月9日)
“Startup Battlefield alum DevAlly raises €2M to help companies with Europe’s feisty new accessibility law”

Startup Battlefield alum DevAlly raises €2M to help companies with Europe’s feisty new accessibility law

【この記事を書いた人】
障害者戦略アドバイザー 社会保険労務士
企業の障害者雇用推進、合理的配慮の設計、職場定着支援を専門としています。法令遵守にとどまらず、障害者雇用を企業成長の原動力に変えるサポートを行っています。