企業の60%が「達成困難」──障害者雇用率2.7%時代に問われる”覚悟”と”構造設計”

数字が示す本質的課題とは

2026年7月、障害者の法定雇用率が2.7%に引き上げられます。この法改正を前に、株式会社スタートラインが実施した調査では、衝撃的な結果が明らかになりました。

企業の60%が「達成できる見込みは低い」と回答したのです。

理由として挙げられたのは、「人材不足」(38%)、「採用ノウハウ不足」(38%)、「業務の切り出し」(23%)──一見すると、これは「採用市場のひっ迫」や「手法の問題」に見えます。

しかし、私が社会保険労務士として、また人工透析患者として10年間働いた当事者経験を持つ専門家として断言できるのは、この数字が示す本質的な課題は別のところにある、ということです。

それは「誰が結果責任を引き受けるのか」が明確になっていないことです。

本記事では、調査結果を読み解きながら、障害者雇用を「義務的対応」から「経営戦略」へと転換するために必要な「覚悟」と「構造設計」について、実務的な視点から解説します。

〇 調査結果が示す「達成困難」の実態

・ 法定雇用率2.7%、企業の6割が「達成困難」

株式会社スタートラインが2025年11月に実施した「障害者雇用に関する2025年の総括と2026年展望調査」では、従業員100名以上500名未満の企業で障害者雇用に携わる担当者100人から回答を得ています。

2026年7月に予定されている法定雇用率2.7%への引き上げについて、60%の企業が「達成できる見込みは低い」と回答しました。

これは、法改正を見据えた準備が進む一方で、多くの企業が「現状の延長線上では対応が難しい」と感じていることを示しています。

・ 達成困難の理由:上位3つの分析

調査では「達成が難しい理由」として、以下の3つが上位に挙がりました。

1. 人材不足(38%)
2. 採用ノウハウ不足(38%)
3. 業務の切り出し(23%)

これらの理由を表面的に受け取れば、「採用母集団が形成できない」「やり方がわからない」「仕事がない」という”手段の問題”に見えます。

しかし、私が現場で数多くの企業を支援してきた経験から見えてくるのは、もっと深い構造的な問題です。

〇 「人材不足」の裏にある真の課題──現場への丸投げ構造

・ 本当に「人材」が足りないのか?

「人材不足」と言いますが、本当にそうでしょうか。

障害者の求職者数は一定数存在します。ハローワークや就労支援機関、人材紹介会社を通じた採用ルートも確立されています。

それなのに「人材不足」と感じるのは、「採用した後、現場がどう対応すればいいかわからない」という不安があるからです。

つまり、採用できないのではなく、「採用した後の責任を誰も引き受けたくない」から、採用に踏み切れないのです。

・ 現場に丸投げされる障害者雇用

多くの企業で、障害者雇用の実務は以下のような構造になっています。

– 人事部門:法定雇用率を満たすため、とにかく採用しなければならないと焦る
– 現場の管理職:突然「障害者を受け入れてほしい」と言われ、何をどうすればいいかわからず困惑する
– 経営層:「法令遵守は重要だ」と言うだけで、具体的な方針や支援体制を示さない

この構造では、現場の管理職が孤立し、障害者本人も適切なサポートを受けられず、結果として定着しません。

そして「やっぱり難しい」という結論に至り、次の採用がさらに遠のく──この悪循環が「人材不足」の正体です。

・ 必要なのは「採用数の確保」ではなく「責任の明確化」

本当に必要なのは、以下のような責任の明確化です。

– 配属先でうまくいかなかった場合、誰が責任を取るのか?
– 現場の管理職が孤立しないサポート体制は整っているか?
– 人事・産業医・外部専門家による支援ラインは機能しているか?

これらが明確になっていない限り、どれだけ「採用しよう」と言っても、現場は動けません。

〇 「採用ノウハウ不足」ではなく「回復ルート不在」が問題

・ ノウハウよりも大切な「是正可能性」

「採用ノウハウ不足」も同率で38%を占めています。

確かに、障害者雇用には特有のノウハウがあります。障害特性の理解、合理的配慮の設計、面接手法、定着支援の方法など、学ぶべきことは多岐にわたります。

しかし、私が現場で最も重視するのは、ノウハウの習得ではなく、**「うまくいかなかったとき、どう是正するのか」という回復ルートの設計**です。

どんなに優れたノウハウを持っていても、計画通りにいかないことは必ずあります。

そのとき、
– 誰に相談すればいいのか?
– どのタイミングで配置転換を検討するのか?
– 本人・現場・人事の三者で、どう対話するのか?

こうした「是正プロセス」が明文化されていなければ、現場は属人的な対応に頼るしかなく、担当者が変われば継続できません。

・ 属人化からの脱却──仕組みで支える構造設計

私が提案するのは、以下のような「構造設計」です。

1. 配置判断のプロセスを標準化する:障害特性と職務要件をマッチングするルールを明文化し、人事が最終判断する
2. 合理的配慮の内容を文書化する:「誰が、いつ、何を、どのように配慮するか」を記録し、引き継ぎ可能にする
3. 定期的な三者面談を制度化する:本人・現場管理職・人事が定期的に状況を共有し、早期に課題を発見する
4. 外部専門家との連携ルートを確保する:社労士・産業医・就労支援機関との定例ミーティングを設ける

こうした仕組みがあって初めて、「ノウハウ」が現場で活かされるのです。

〇 「業務の切り出し」問題──定型業務の消滅と戦略的業務設計

・ AIとRPAが奪う「従来型の受け皿」

調査では「業務の切り出し」が23%で3番目の課題として挙げられています。

これは、従来の障害者雇用が「データ入力」「書類整理」「清掃」といった定型業務に偏っていたことと関係しています。

しかし、AIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の普及により、こうした定型業務は急速に自動化されつつあります。

つまり、「仕事をつくって雇う」という従来モデルが限界を迎えているのです。

・ 必要なのは「仕事を切り出す」から「特性を活かす」への転換

ここで必要なのは、発想の転換です。

「どんな仕事を用意するか」ではなく、**「この人の特性は、どの業務で最も活きるか」**という視点です。

たとえば、
– 視覚情報の処理に優れる人→データの照合、図面チェック、デザイン補助
– 集中力が高く、繰り返し作業が得意な人→検品、品質管理、コーディング
– 細部への注意力が高い人→契約書レビュー、マニュアル校正、テスト業務
– 対人コミュニケーションが得意な人→接客、電話対応、社内調整

こうした「特性ベースの配置設計」を行うには、人事が障害特性を理解するだけでなく、**各部署の業務内容を細分化し、特性とマッチングする仕組み**が必要です。

〇 「定着支援」と「受け入れ体制づくり」が鍵──調査が示す今後のニーズ

・ 今後必要な支援:上位3つの分析

調査では「今後必要だと感じている支援」として、以下が上位に挙げられました。

1. 定着支援(33%)
2. 受け入れ部署への研修(31%)
3. 業務切り出し支援(30%)

これらはすべて正しい方向性です。採用数の確保だけでなく、入社後に安定して働き続けられる環境整備が重要視されています。

しかし、ここで注意すべきは、**こうした支援を「外部に依頼すれば解決する」と考えてはいけない**ということです。

・ 外部支援の限界と、経営の役割

外部の専門家(社労士、就労支援機関、コンサルタント)ができるのは、あくまで「仕組みをつくる支援」です。

– 定着支援の仕組みを設計する
– 受け入れ研修のプログラムを提供する
– 業務切り出しのフレームワークを提示する

しかし、その仕組みを**「自社の制度として定着させ、運用し続ける」のは、経営と人事の仕事**です。

外部支援に頼りきりになると、支援が終わった途端に元の状態に戻ります。これでは「持続可能な障害者雇用」とは言えません。

・ 経営が腹を括り、構造で支える

本当に必要なのは、経営層が以下のことを明確にすることです。

– 障害者雇用は経営戦略であると位置づけ、全社に方針を示す
– 現場任せにせず、人事・経営が責任を持つ体制をつくる
– 評価制度・報酬設計を見直し、多様な働き方を前提とした制度に再設計する
– 短期的な批判を受けても、方針を貫く覚悟を持つ

これらが揃って初めて、外部支援が活きるのです。

〇 私の当事者経験から伝えたいこと──「配慮される側」の本音

・ 誰よりも「迷惑をかけたくない」と思っている

私は人工透析患者として10年間働いてきました。週3回、1回4時間の透析治療を受けながら、フルタイムで勤務していました。

その経験から言えるのは、「配慮してもらう側」も、実は誰よりも「迷惑をかけたくない」と思っているということです。

周囲に気を遣わせることへの罪悪感、「自分がいることで負担になっているのではないか」という不安──こうした感情は、当事者の多くが抱えています。

・ 善意ではなく、明文化されたルールが必要

だからこそ、善意や個別対応ではなく、明文化されたルールと、引き継ぎ可能な仕組みが必要なのです。

「この人が優しいから配慮してくれる」という属人的な体制は、本人にとっても不安です。その人がいなくなったら? 異動したら? 引き継がれなかったら?

そうした不安を抱えながら働くのは、精神的に大きな負担です。

一方、「就業規則に明記されている」「全社共通のルールである」「誰が担当になっても同じ対応がされる」という制度があれば、本人も安心して働けます。

・ 構造で支えることが、本人にも企業にも優しい

私が「制度は道具」という発想を持ち、構造設計を重視するのは、それが**本人にとっても、企業にとっても、最も持続可能な方法**だからです。

人の善意や感情を前提にした体制は、誰にとっても負担が大きく、長続きしません。

〇 「達成困難」60%が問いかけるもの──未来耐久性のテスト

・ これは「法令遵守」の問題ではない

企業の60%が「達成困難」と答えた現実は、企業に突きつけられた問いです。

「あなたの会社は、10年後も持続する覚悟がありますか?」

これは単なる「法令遵守」の問題ではありません。未来耐久性のテストです。

短期的には、法定雇用率の達成は負担に見えるかもしれません。採用コスト、教育コスト、配慮のための工数──すべてが「増える」ように感じます。

しかし、少子高齢化による労働力不足が加速する中で、多様な人材を活かせない企業は、10年後には確実に競争力を失います。

・ 嫌われる覚悟を持って、長期視点で設計する

私が「福祉ではなく経営戦略としての障害者雇用」を提唱するのは、綺麗事を言いたいからではありません。

10年後も持続する組織をつくるために、今、嫌われ役を引き受けてでも、構造と制度で安全を担保する仕組みをつくることが、専門家の責務だと考えているからです。

正しさよりも、今の空気や合意よりも、「この選択は10年後も持続するか」を最上位の判断基準とする。

これが「未来耐久性」という私の価値観です。

〇 おわりに──「達成困難」を「戦略的転換」の機会に

・ 外部支援に頼る前に、経営が決断すべきこと

調査結果が示す「定着支援」「受け入れ研修」「業務切り出し支援」のニーズは、すべて正しい方向性です。

しかし、外部支援に頼る前に、経営がまず決断すべきことがあります。

それは、**「障害者雇用を経営戦略と位置づけ、結果責任を引き受ける」**という覚悟です。

・ 今こそ、構造設計に取り組むとき

「達成困難」と答えた60%の企業に伝えたいのは、これは「不可能」ではなく、「今の延長線上では難しい」ということです。

つまり、やり方を変えれば、達成できるのです。

そのために必要なのは、
– 責任の明確化
– 回復ルートの設計
– 特性ベースの配置設計
– 制度としての定着

こうした「構造設計」に、今こそ取り組むべきです。

・ 私たち専門家の役割

私たち社会保険労務士をはじめとする専門家の役割は、その構造設計を支援し、企業が長期的に持続できる仕組みをつくることです。

もし、あなたの組織が本気で障害者雇用を「戦略」にしたいと考えているなら、まず問うべきは「どう採用するか」ではなく、「誰が責任を取るか」です。

その答えを一緒に設計していきましょう。

【参考記事】
【障がい者雇用】”法定雇用率2.7%時代”に向けた企業の現実…6割が「達成困難」、カギは職域開拓と定着支援の仕組み化か
https://www.hrpro.co.jp/keiei/articles/news/3694

動画も公開しています。
企業の「困った」を解決!障害者雇用サポート塾
https://youtube.com/channel/UC4CPSnfSxvaVCEA902K9gfQ?si=NCauCnBZAPc7U-Fh