障害者雇用「あと1人の壁」―64%の企業が達成まで「あと一歩」なのに踏み出せない理由と、2026年法改正を前に中小企業が今すべきこと

1. 実雇用率2.41%で横ばい―数字の裏に隠れた「あと1人の壁」

2025年12月にアドバンスニュースが報じた障害者雇用状況の最新データは、一見すると「停滞」を示すものでした。

・ 主要指標はすべて「横ばい」

– 実雇用率:2.41%(前年同率)
– 法定雇用率達成企業の割合:46.0%(前年同率)
– 障害者雇用数:70万4,610人(前年比4.0%増)

障害者雇用数自体は増えているものの、法定雇用率2.5%には届いておらず、達成企業の割合も半数以下のままです。

しかし、私が障害者雇用コンサルタントとして最も注目したのは、別の数字でした。

・ 未達成企業は6万5,033社、前年より1,600社増加

法定雇用率を達成できていない企業は、昨年より1,600社以上増えました。この数字だけを見ると「悪化している」ように思えます。

ところが、この未達成企業の内訳を見ると、全く違う景色が見えてくるのです。

2. 未達成企業の64%が「不足数0.5〜1人」という希望のデータ

ここに、非常に重要なデータがあります。

・法定雇用率未達成企業6万5,033社のうち、64%が「不足数0.5人または1人」

つまり、約4万社以上の企業が「あと1人雇用すれば法定雇用率を達成できる」ところまで来ているのです。

・ 「あと1人」が示す意味

この数字が示すのは、多くの企業にとって障害者雇用は「ゼロから始める遠い目標」ではなく、「最初の一歩を踏み出せば達成できるすぐそこにある目標」だということです。

言い換えれば、障害者雇用の最大の壁は「継続的な取り組み」ではなく、「最初の一人を雇用する決断と実行」なんです。

・ 一方で深刻な数字も

未達成企業のうち、57.3%が「1人も雇用していない」という事実も明らかになっています。

約3万7,262社が、まだスタートラインにすら立てていません。

つまり、障害者雇用の現場では、「順調に進めている企業」と「まだ手をつけられていない企業」の二極化が進んでいるのです。

3. 中小企業の深刻な現実―企業規模別格差が示すもの

今回のデータで特に注目すべきは、企業規模別の実雇用率の格差です。

・ 企業規模別実雇用率

– 従業員1000人以上:2.69%(法定雇用率2.5%を達成✓)
– 従業員40〜100人未満:1.94%(法定雇用率未達成✗)
– 従業員100〜1000人未満:約2.0〜2.3%前後(法定雇用率未達成✗)

この数字が示すのは、大企業と中小企業の間に明確な格差が存在するということです。

・ なぜ大企業は達成できて、中小企業は達成できないのか?

これは決して「大企業の方が優秀」だからではありません。

大企業にあって中小企業にないもの:

①専門部署(人事部門、ダイバーシティ推進部門など)
②専任の担当者(障害者雇用専門のスタッフ)
③豊富な予算(外部コンサルタント、支援機関との連携費用)
④蓄積されたノウハウ(過去の成功・失敗事例のデータベース)
⑤特例子会社の設立(障害者雇用に特化した子会社)

つまり、中小企業が直面しているのは「能力の問題」ではなく、「リソースとノウハウの問題」なのです。

4. なぜ「あと1人」を雇用できないのか?中小企業が直面する3つの壁

私がこれまで数多くの中小企業をサポートしてきた経験から、「あと1人」を雇用できない企業が共通して直面している壁は、主に3つあります。

壁①:情報とノウハウの不足「どこから始めればいいかわからない」

よく聞く声:
「障害者雇用をしたいけど、何から手をつければいいかわからない」
「どこに相談すればいいかわからない」
「法律や制度が複雑すぎて理解できない」

障害者雇用促進法、合理的配慮、助成金、就労支援機関、ジョブコーチ、特例子会社……。初めて取り組む企業にとって、覚えるべき専門用語や制度が多すぎるのが現実です。

壁②:人的リソースの制約「専任担当者を置けない」

よく聞く声:
「うちは人事部がないので、誰が担当すればいいかわからない」
「既存社員の負担が増えるのが心配」
「採用活動や定着支援に時間を割けない」

大企業のように専任の担当者を置く余裕がない中小企業では、既存社員が本業と兼務で障害者雇用を進めなければなりません。

壁③:心理的なハードル「失敗したらどうしよう」

よく聞く声:
「うちの会社に適した仕事があるか不安」
「既存社員が受け入れてくれるか心配」
「トラブルが起きたらどう対応すればいいかわからない」
「採用してもすぐに辞められたらコストが無駄になる」

こうした不安が、「あと1人」を雇用する決断を躊躇させる大きな要因になっています。

5. 2026年7月の法改正で状況はさらに厳しく―今から準備すべき理由

実は、2026年7月にさらなる法改正が控えています。

・ 法定雇用率が2.7%に引き上げ

現行の2.5%から、2.7%に引き上げられることが決定しています。

具体的な影響:
– 従業員50人の企業:必要雇用数 1.25人 → 1.35人
– 従業員100人の企業:必要雇用数 2.5人 → 2.7人

今は「あと1人」で済んでいる企業も、来年にはさらに雇用数を増やす必要が出てきます。

・ 対象企業の範囲拡大

現在は従業員40人以上の企業が対象ですが、法定雇用率の引き上げに伴い、従業員37.5人以上の企業が対象となります。

「うちは対象外」と思っていた小規模企業も、雇用義務を負うことになります。

・ 今から準備を始めるべき3つの理由

理由①:採用には時間がかかる
障害者の採用市場は競争が激しく、希望する人材を見つけるまでに数ヶ月〜1年かかることも珍しくありません。

理由②:受け入れ体制の構築には準備期間が必要
社内の理解促進、業務設計、物理的な環境整備などには、相応の時間が必要です。

理由③:早く始めた企業ほど有利
2026年7月に法改正が施行されると、多くの企業が一斉に採用活動を始めます。その前に動き出した企業ほど、優秀な人材と出会えるチャンスが増えます。

6. 「あと1人」を雇用するための具体的5ステップ

では、具体的にどうすれば「あと1人」を雇用できるのか。実践的な5つのステップをご紹介します。

・ ステップ①:現状把握と目標設定(所要時間:1日)

まずは自社の状況を正確に把握しましょう。

確認すべき項目:
– 常用労働者数(正社員+週30時間以上の契約社員・パート)
– 現在の障害者雇用数
– 法定雇用率に基づく必要雇用数
– 不足数

計算例:
従業員50人の企業の場合
50人 × 2.5% = 1.25人 → 1人以上の雇用が必要

・ ステップ②:経営トップの理解とコミットメント(所要時間:1週間)

障害者雇用を成功させる最大の要因は、**経営トップが「会社の方針」として明確に示すこと**です。

やるべきこと:
– 経営会議で障害者雇用を議題に
– 経営理念や方針に障害者雇用を位置づけ
– 社内報や朝礼でトップメッセージを発信

・ ステップ③:支援機関への相談(所要時間:2週間)

一人で悩まず、まずは専門家に相談しましょう。

相談先:
– ハローワークの専門援助部門
– 障害者就業・生活支援センター
– 就労移行支援事業所
– 社会保険労務士(障害者雇用専門)

・ ステップ④:業務の洗い出しと切り出し(所要時間:2〜4週間)

「障害者にできる仕事がない」と思い込んでいませんか?

実は、既存業務を見直せば、必ず切り出せる業務が見つかります。

業務の切り出し例:
– データ入力作業
– 書類整理・ファイリング
– 資料作成の補助
– 清掃・環境整備
– 軽作業(梱包、ラベル貼り、検品など)
– 電話対応・受付業務

・ ステップ⑤:採用活動と受け入れ準備(所要時間:1〜3ヶ月)

業務が決まったら、採用活動を開始します。

採用の流れ:
1. 求人票の作成(ハローワークや就労支援機関に提出)
2. 候補者との面接
3. 職場実習の実施(1〜2週間程度)
4. 正式採用の決定
5. 入社前の受け入れ体制整備

7. 活用すべき支援機関と助成金制度

障害者雇用は、決して「企業が一人で取り組むもの」ではありません。多くの支援機関と助成金制度があります。

・ 支援機関①:ハローワーク(公共職業安定所)

利用できるサービス:
– 障害者専門の職業相談員による支援
– 求人募集・人材紹介
– トライアル雇用の支援
– 各種助成金の申請サポート

費用:無料

・ 支援機関②:障害者就業・生活支援センター

利用できるサービス:
– 就職前の相談・準備支援
– 職場定着支援
– 生活面の相談支援
– 企業と障害者の橋渡し

費用:無料

・ 支援機関③:就労移行支援事業所

利用できるサービス:
– 就労準備が整った障害者の紹介
– 職場実習の受け入れ
– 採用後の定着支援

費用:無料(事業所への支払いは公的制度)

・ 助成金①:特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)

対象:障害者を継続して雇用する事業主
金額:最大240万円(重度障害者等の場合)

・ 助成金②:障害者トライアル雇用助成金

対象:障害者を試行的に雇用する事業主
金額:月額最大4万円(最長3ヶ月)

・ 助成金③:障害者雇用安定助成金(障害者職場定着支援コース)

対象:職場定着に取り組む事業主
金額:最大120万円

8. 中小企業の強みを活かした障害者雇用成功事例

ここで、実際に「あと1人の壁」を越えた中小企業の成功事例をご紹介します(個人情報保護のため一部改変)。

・ 事例①:従業員48人の製造業A社

課題:
法定雇用率達成のため1人の雇用が必要だったが、「工場の仕事は危険で無理」と思い込んでいた。

解決策:
業務を見直したところ、製品の検品・梱包・ラベル貼りなど、安全な軽作業が多数あることに気づいた。就労移行支援事業所と連携し、知的障害のある方を採用。

結果:
丁寧で正確な作業ぶりが評価され、今では欠かせない戦力に。他の社員も「教える」ことで成長した。

・ 事例②:従業員60人のサービス業B社

課題:
事務作業を担当できる障害者を探していたが、なかなか見つからなかった。

解決策:
ハローワークの専門相談員に相談し、精神障害のある方を紹介された。在宅勤務と週3日の短時間勤務からスタート。

結果:
データ入力や資料作成など、丁寧で正確な仕事ぶりが評価され、半年後にフルタイム勤務に移行。現在も安定して勤務中。

9. まとめ:「あと1人」は遠い目標ではなく、すぐそこにある可能性

未達成企業の64%が「不足数0.5〜1人」という数字は、障害者雇用が決して「遠い目標」ではないことを示しています。

・ 「あと1人」を雇用すれば変わること

✅ 法定雇用率を達成できる
✅ 障害者雇用納付金を支払わなくて済む
✅ 助成金を活用できる
✅ 企業イメージが向上する
✅ 多様性のある組織文化が育つ

・ 中小企業だからこそできること

中小企業には、大企業にはない強みがあります。

– 顔の見える関係で丁寧にフォローできる
– 柔軟な働き方を個別に設計できる
– 温かい組織風土で安心して働ける環境を作れる

規模が小さいことは、決して弱みではありません。

・ 2026年7月の法改正を前に、今こそ動き出すとき

法定雇用率が2.7%に引き上げられる前に、「最初の一人」を雇用しておけば、来年の法改正にも余裕を持って対応できます。

「あと1人」は、遠い目標ではなく、すぐそこにある可能性です。

・ 専門家のサポートを活用しましょう

「どこから始めればいいかわからない」
「自社に合った進め方を知りたい」
「失敗しない方法を教えてほしい」

そんな経営者や人事担当者の方は、ぜひお気軽にご相談ください。

御社の規模、業種、状況に合わせた、無理のない障害者雇用の進め方を、一緒に考えていきましょう。

「あと1人の壁」を越えることで、御社の組織は必ず成長します。その最初の一歩を、私たちがサポートします。

【参考資料】
アドバンスニュース「企業の障害者実雇用率は2.41%の横ばい 達成企業も46%のまま」(2025年12月)
https://www.advance-news.co.jp/news/2025/12/post-5018.html

動画も公開しています。
企業の「困った」を解決!障害者雇用サポート塾
https://youtube.com/channel/UC4CPSnfSxvaVCEA902K9gfQ?si=NCauCnBZAPc7U-Fh

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