リモートワークは消えない――障害者雇用における合理的配慮の新常識と、企業が取るべき戦略

「オフィス復帰を進めたいが、障害者社員への配慮も必要…」
「リモートワークは合理的配慮として認めるべきなのか?」
「一部の社員だけリモートを認めると、不公平感が生まれないか?」

2024年4月から合理的配慮の提供が義務化された日本では、こうした悩みを抱える企業が増えています。

そんな中、2025年3月、米国人事管理協会(SHRM)が発表した調査は、非常に重要な事実を明らかにしました。

リモートワークは「コロナ禍の一時的措置」ではなく、むしろ拡大しており、障害者にとっては重要な合理的配慮の選択肢であるということです。

米国では、障害者の23%がリモート・ハイブリッドで働いており、ADA(障害を持つアメリカ人法)のもとで、リモートワークが合理的配慮として認められるケースが増えています。

さらに、リモート・ハイブリッド労働者の約半数が「オフィス復帰命令が出たら転職を考える」と回答しており、一律のオフィス復帰方針は、優秀な人材の流出リスクを高める可能性があります。

今回は、SHRMの調査を詳しく読み解きながら、障害者雇用におけるリモートワークの重要性と、企業が取るべき戦略を、社会保険労務士の視点から解説します。

1. リモートワークは「消えていない」――データが示す現実

▼ テレワーク実施率は増加傾向

メディアでは「企業がオフィス復帰を急速に進めている」という報道が目立ちますが、実際のデータは異なる現実を示しています。

米国労働統計局(BLS)のデータによると、米国のテレワーク実施率は

– 2022年10月:17.9%
– 2025年2月:23.7%

つまり、増加傾向にあるのです。

SHRMのシニアエコノミスト、ジャスティン・ラドナー氏は、こう述べています。

「メディアでよく見られる『すべての企業ができるだけ早く完全オフィス復帰を進めている』という物語とは逆に、実際のデータは、リモートワークが依然として徐々に拡大していることを示している。これらの増加は主にハイブリッドワークの拡大によるものだ」

▼ リモート労働者は転職を辞さない

さらに重要なのは、リモート・ハイブリッド労働者の働き方に対するコミットメントです。

SHRMの調査によると、リモート・ハイブリッドで働く米国労働者の約半数が「オフィス復帰命令が出たら、転職を検討する」と回答しています。

つまり、企業が一律のオフィス復帰方針を取ることは、**優秀な人材を失うリスク**を意味するのです。

2. 誰がリモートワークを必要としているのか?――3つの主要グループ

SHRMの調査では、リモート・ハイブリッドワークを活用する3つの主要グループが明らかになりました。

▼ ①ケアギバー(育児・介護者)

– 18歳未満の子どもがいる労働者の27.8%がテレワーク(全体平均23.6%を上回る)
– 高齢の親や家族のケアをする人も含む

ケアギバーは、リモートワークによって「家族のために存在しながら、仕事の要求とバランスを取ることができる」と評価しています。通勤やオフィスの気が散る環境から解放され、両方の領域でより関与できるのです。

興味深いのは、ケア責任が彼らを「生産的で効率的であるよう動機づける」と答えており、ケアギバーとしての役割から得る動機を5段階評価で4.2と評価している点です(0=動機づけにならない、5=非常に動機づけになる)。

▼ ②デジタルノマド・若年層

– 米国労働者の10人に1人以上がデジタルノマドと自認(2024年MBO Partnersレポート)
– 18〜34歳の約3人に1人が親と同居(2024年米国国勢調査局データ)

これらの労働者は、伝統的な「定住型ライフスタイル」(物質的な財を蓄積し、定住すること)を避け、柔軟性と不確実性を受け入れる傾向があります。

企業にとっては、

– 国境を超えて人材プールを拡大できる
– 「働く場所を信頼されている」と感じる社員は、エンゲージメント・生産性・ロイヤルティが高い

というメリットがあります。

▼ ③障害のある労働者

– 障害者の23%がリモート・ハイブリッドで働いている
– 多くの障害者が、ADA(障害を持つアメリカ人法)のもとで、リモートワークを合理的配慮として継続している

この3つ目のグループこそが、日本企業の障害者雇用戦略において、最も注目すべきポイントです。

3. 障害者にとってリモートワークが重要な理由

▼ 物理的・心理的障壁の除去

記事では、障害者がリモートワークを必要とする理由を、こう説明しています。

「障害のある労働者は、困難な通勤やオフィスワークの他の負担を避けることができる。これらの障壁が取り除かれることで、より強い自立感を経験し、メンタルヘルス全体の改善も見られる」

具体的には、

車椅子ユーザー:
– 通勤時の物理的バリア(段差、狭い通路、エレベーター不足など)を回避
– 長時間の移動による身体的負担の軽減

精神障害・発達障害:
– 感覚過敏(音・光・匂いなど)からの解放
– 対人ストレスの軽減
– 自分のペースで集中できる環境の確保

内部障害(心臓病、腎臓病、がんなど):
– 通院や定期的な治療との両立が容易
– 体調に応じた休憩の取りやすさ

▼ ADAにおける合理的配慮としてのリモートワーク

米国では、ADA(障害を持つアメリカ人法)のもとで、リモートワークが「合理的配慮(Reasonable Accommodation)」として認められるケースが増えています。

つまり、企業が一律にオフィス復帰を命じることは、障害者の権利を侵害する可能性があるのです。

実際、以前ご紹介したAmazonの事例でも、障害者社員が「医学的推奨に基づいて在宅勤務を認められていたにもかかわらず、一律のオフィス復帰命令を受けた」として、ADA違反を訴えています。

▼ 企業にとってのメリット

記事では、障害者を「しばしば未開拓の、意欲的で熱心な候補者プール」と表現しています。

つまり、リモートワークを柔軟に認めることで、企業は優秀な障害者人材を採用・定着させることができるのです。

4. 日本企業への示唆――合理的配慮としてのリモートワーク

▼ 日本でも進む合理的配慮の義務化

日本でも、2024年4月から障害者雇用促進法に基づく合理的配慮の提供が義務化されました。

企業は、障害者からの配慮要望を真摯に受け止め、過重な負担にならない範囲で配慮を提供する義務を負います。

そして、リモートワークやフレックス勤務は、非常に有効な配慮の選択肢です。

▼ リモートワークが配慮として有効なケース

身体障害:
– 車椅子ユーザー:通勤負担の軽減、バリアフリー環境の確保
– 上肢・下肢障害:通勤時の身体的負担の軽減

精神障害・発達障害:
– うつ病、双極性障害:通勤ストレスの軽減、体調に応じた柔軟な勤務
– 自閉スペクトラム症、ADHD:感覚過敏への対応、集中しやすい環境の確保

内部障害:
– 心臓病、腎臓病、がん:通院・治療との両立、体調に応じた休憩

知的障害:
– 慣れた環境での作業、サポート者(家族など)の近くでの勤務

▼ 「不公平感」への対処

「一部の社員だけリモートを認めると、不公平感が生まれるのでは?」という懸念をよく聞きます。

しかし、合理的配慮は「平等」ではなく「公正(equity)」の考え方に基づきます。

– 平等:すべての人に同じものを提供する
– 公正:それぞれの人が必要とするものを提供する

障害者へのリモートワークは「特別扱い」ではなく、他の社員と同じスタートラインに立つための配慮なのです。

そして重要なのは、リモートワークは障害者だけでなく、育児・介護中の社員、持病のある社員、すべての人にとって働きやすい環境につながることです。

5. 企業が取るべき戦略――柔軟性とロイヤルティの構築

記事では、リモート・ハイブリッド労働者を惹きつけ、定着させるために、企業が以下を見直すべきだと提言しています。

▼ ①休暇・休業制度の拡充

– 育児だけでなく、介護や治療との両立を支援する制度
– 幅広いケアギバーをカバーする柔軟な休暇制度

▼ ②柔軟な勤務時間

– コアタイムを設けつつ、オフピーク時の業務も可能にする
– 「いつ仕事をするか」の柔軟性を提供

▼ ③トータルリワードの見直し

– 通勤補助(交通費だけでなく、通勤負担を軽減する施策)
– オンサイトでの食事提供(月に数回など)
– 小さな配慮が、労働者の日常を楽にし、ロイヤルティを高める

6. 「オフィス復帰か、リモートか」ではなく「柔軟性」を

この記事が示す最も重要なメッセージは、「オフィス復帰かリモートか」という二者択一ではなく、柔軟性こそが鍵だということです。

企業は、

– 業務の性質
– 従業員の状況(障害、育児・介護、居住地など)
– チームのコラボレーションニーズ

を総合的に考慮し、一人ひとりに最適な働き方を設計する必要があります。

そしてそれは、障害者雇用における合理的配慮の本質でもあります。

7. 社労士として企業に伝えたいこと

私は、障害者雇用コンサルティングを専門とする社会保険労務士として、多くの企業さまの支援をしてきました。

その中で強く感じるのは、**リモートワークを「コスト」や「特別扱い」として捉えるのではなく、「戦略的ツール」として活用する**ことの重要性です。

リモートワークは、

– 障害者を含む多様な人材を採用・定着させる
– すべての社員の働きやすさを向上させる
– 優秀な人材の流出を防ぐ
– 採用ブランディングで優位に立つ

ための、強力な武器なのです。

8. まとめ――リモートワークは消えない、そして障害者雇用の重要な選択肢

SHRMの調査が示したのは、リモートワークが「コロナ禍の一時的措置」ではなく、これからの働き方の標準になりつつあるという事実です。

そして、障害者にとっては、合理的配慮の重要な選択肢です。

日本企業も、合理的配慮の義務化を受けて、リモートワークを柔軟に活用することが求められています。

もし貴社が、

– オフィス復帰と障害者配慮のバランスに悩んでいる
– リモートワークを合理的配慮として認めるべきか判断に迷っている
– 柔軟な働き方の制度設計を相談したい
– 障害者雇用の採用・定着に課題を感じている

とお考えなら、ぜひ一度ご相談ください。

リモートワークは消えません。そして、これを活用できる企業こそが、これからの人材獲得競争で優位に立つのです。

【参考記事】
SHRM(2025年3月25日)
“Remote Work Isn’t Going Away—and Workers Don’t Want It to”
https://www.shrm.org/enterprise-solutions/insights/remote-work-isnt-going-away

【この記事を書いた人】
障害者雇用コンサルティング専門 社会保険労務士
企業の障害者雇用推進、合理的配慮の設計、職場定着支援を専門としています。法令遵守にとどまらず、障害者雇用を企業成長の原動力に変えるサポートを行っています。