代行ビジネス1800社が問う「共に働く」という理念――障害者雇用の「質」とは何か
〇数字は伸びても、理念は実現しているのか
公明党ニュースが、厚生労働省研究会の報告書をもとに、障害者雇用の現状と課題を解説しています。
記事によれば、2025年6月時点の民間企業における障害者雇用の総数は70万5000人で、22年連続で過去最多を更新。実雇用率は2.41%まで上昇しています。
数字だけを見れば、障害者雇用は順調に進展しているように見えます。
しかし、記事が指摘する「障がい者雇用ビジネス(代行ビジネス)」の急増は、障害者雇用の「質」に関する深刻な問題を浮き彫りにしています。
利用企業数は2025年10月末時点で1800社を超え、急増しています。記事では「障害の有無にかかわらず共に働く」という障害者雇用促進法の理念に反するとの声があると指摘しています。
本記事では、社会保険労務士として、また人工透析患者として10年間働いた当事者として、この問題を深く掘り下げます。
〇 障害者雇用の現状――数字は伸びても、中小企業は停滞
・ 大企業では進展、中小企業では停滞
記事によれば、1000人以上の大企業では、法定雇用率を達成する企業の割合が約5~6割に達しています。「ビジネスと人権」の面での国際的な要請やコンプライアンス意識の高まりが背景にあります。
一方、中小企業における障害者雇用は伸び悩んでいます。常時雇用する労働者が100人未満の企業の実雇用率は上昇傾向にあるものの、障害者を全く雇用していない企業は300人未満の企業が大半を占め、企業規模が小さくなるほど多いのが現実です。
・ 2026年7月には法定雇用率2.7%へ
2022年12月に障害者雇用促進法が改正されたことで、法定雇用率が2026年7月から2.7%に引き上げられます。企業は障害者の雇用に一層注力する姿勢が求められます。
しかし、企業にとっては、職務の選定・開拓、募集・採用、合理的配慮といった面で乗り越えるべきハードルが高いのも事実です。
そこで急増しているのが、「障がい者雇用ビジネス(代行ビジネス)」です。
〇 代行ビジネスとは何か――「共に働く」ではなく「別々に働く」
・ 代行ビジネスの仕組み
代行ビジネスとは、法定雇用率の達成が困難な企業に代わり、障害者が働く場を提供する仕組みです。
具体的には、以下のような流れです。
1. 企業A社が代行ビジネス事業者B社と契約
2. B社が障害者を採用し、A社に出向または派遣
3. 障害者はA社の本業とは直接関係のない場所で別の業務を行う
4. A社は法定雇用率を達成できる
企業にとっては、採用・教育・業務設計の負担を軽減しながら法定雇用率を達成できる「効率的な手段」です。
・ 「共に働く」という理念との矛盾
しかし、これは本当に「共に働く」と言えるのでしょうか?
障害者雇用促進法が掲げる理念は、「障害の有無にかかわらず共に働く」ことです。つまり、同じ組織の中で、同じ目標に向かって、互いに協力しながら働くことです。
しかし、代行ビジネスでは、障害者は企業の本業から切り離され、別の場所で別の業務を行います。これは「共に働く」ではなく、「別々に働く」です。
記事では「障害の有無にかかわらず共に働く」との理念に反するとの声があると指摘していますが、私はこの指摘に全面的に同意します。
・ 障害者にとっての「やりがい」と「帰属意識」
企業は法定雇用率を達成できる。代行ビジネスは収益を得る。一見、Win-Winに見えます。しかし、障害者にとってはどうでしょうか?
– やりがい:本業から切り離された業務に、やりがいはあるのか
– キャリアパス:組織の中でキャリアを積んでいく道筋は描けるのか
– 帰属意識:組織の一員としての帰属意識は持てるのか
私が10年間、人工透析患者として働いた経験から言えるのは、「別々に働く」ことの孤独です。
組織の中心から離れた場所で働くことは、物理的な距離だけでなく、心理的な距離も生みます。「自分はこの組織の一員なのか」「自分の仕事は会社の成長に貢献しているのか」――そんな疑問が常に頭をよぎります。
〇 なぜ代行ビジネスが急増するのか――「数合わせ」の構造
・ 企業の「焦り」が生む需要
なぜ、代行ビジネスの利用企業が1800社を超えるまで急増したのでしょうか。
理由は明確です。法定雇用率が引き上げられ、企業は「とにかく雇用しなければ」と焦っているからです。
自社で受け入れ体制を整える時間も余裕もない。業務の切り出し方も分からない。どうやって障害者を支援すればいいのかも分からない。
そこで、代行ビジネスに丸投げする――この構造が、1800社超という数字に表れています。
・ 「数合わせ」の弊害
代行ビジネスの多くは、「数合わせ」として利用されています。
もちろん、すべての代行ビジネスが悪いわけではありません。適切な支援体制があり、障害者が能力を発揮できる環境が整っているなら、有効な選択肢になり得ます。
しかし、現実には以下のような問題があるケースも報告されています。
– 実態のない業務:形式的な業務しか与えられず、やりがいがない
– 不適切な労働環境:合理的配慮が提供されず、働きにくい
– 過度な利益追求:企業から高額な報酬を受け取りながら、障害者への支援は不十分
これでは、障害者雇用の「質」は向上しません。
〇 報告書の方向性――ガイドライン創設と報告義務
・ 代行ビジネスへの対応
今回の報告書では、代行ビジネスへの対応として以下が盛り込まれました。
– 利用企業による報告の実施:どのような業務を任せているか、行政が把握できるようにする
– 事業者向けのガイドライン創設:資格保有者の配置、職員研修の実施、情報開示などを規定
これは一歩前進です。しかし、実効性が鍵となります。
ガイドラインが形骸化すれば意味がありません。報告義務も、形式的なチェックに終われば、実態は変わりません。
・ 中小企業への支援強化
報告書では、中小企業への支援強化も提言されています。
特に、最初の1人を雇用する際の企業負担が特に大きいとして、支援策の検討を求めています。また、雇用後の定着支援を中心に中小企業への支援を一層強化するよう促しています。
これは正しい方向です。企業が自力で障害者雇用を進められる環境を整えることが、本質的な解決につながります。
・ 障がい者雇用の「質」に関するガイドライン創設
報告書では、「障がい者雇用の『質』に関するガイドライン創設」の必要性も明記されました。
これまで、障害者雇用は「数」に焦点が当てられてきましたが、今後は「質」が問われる時代になります。
具体的には、以下のような要素が「質」の指標になると考えられます。
– 能力発揮:障害者が持つ能力を最大限に活かせる業務設計
– 適正な雇用管理:合理的配慮の提供、労働環境の整備
– 正当な評価:障害の有無に関わらず、公正な評価制度の構築
– 定着率*雇用後の継続就業率
〇 本質的な解決策――企業が「自社で雇用できる構造」を作る
・ 代行ではなく、自社での戦力化を
私が本当に必要だと考えるのは、企業が「自社で雇用できる構造」を作ることです。
代行ビジネスに頼るのではなく、自社の業務の中に障害者が担当できる仕事を見つけ、適切な支援体制を整え、戦力として機能する仕組みを構築する――これが、本質的な解決策です。
・ 企業に必要な3つの支援
企業が自力で障害者雇用を進めるために必要なのは、以下の3つの支援です。
1. 業務の切り出し支援
中小企業が単独で「どの業務を障害者に任せるか」を判断するのは困難です。業務の棚卸しと切り出しを支援する専門家の派遣や、業種別・規模別の具体的な事例集の提供が必要です。
2. 定着支援の強化
雇用後の継続的なフォローアップとメンタルヘルスケアの仕組みが不可欠です。ジョブコーチの派遣や、定期的な面談、職場環境の調整など、きめ細かな支援が求められます。
3. 助成金の拡充
初期コストを軽減する支援が必要です。障害者を雇用する際の設備投資、研修費用、専門家への相談費用などを助成する制度の拡充が求められます。
・ 「制度は道具」――使い方次第で罰にも支援にもなる
私の思想の核心は、「制度は道具である」ということです。
代行ビジネスも、道具の一つです。しかし、道具の使い方を間違えれば、形だけの「共生社会」になります。
大切なのは、「未来に耐える構造」を作ることです。目先の数字達成ではなく、長期的に持続可能な障害者雇用の仕組みを構築すること。
〇 難病患者の算定対象化は画期的な前進
・ 手帳の有無ではなく、就労困難性で判断
報告書では、障害者手帳を持たない難病患者も雇用率の算定に含める方針が示されました。
これは当事者として非常に意義深い改正です。就労困難性は「手帳の有無」ではなく、「実際の職業生活への制限の程度」で判断されるべきだからです。
・ 「見えない障害」への理解が広がる
難病患者の多くは、外見からは分かりにくい「見えない障害」を抱えています。
– 定期的な通院が必要
– 体調の波がある
– 長時間労働が困難
こうした制約は、手帳の有無に関係なく存在します。今回の改正により、難病患者が「見えない存在」から「制度の対象」になることは、大きな前進です。
〇「本当の共生」とは何かを問い直す
障害者雇用の数字は伸びています。しかし、その裏で代行ビジネスが急増し、「共に働く」という理念が形骸化している現実があります。
2027年の法改正に向けて、企業も、代行ビジネス事業者も、そして私たち専門家も、「本当の共生」とは何かを問い直す必要があります。
私の答えは明確です。
〇「別々に働く」ではなく、「共に働く」。代行ではなく、自社での戦力化。数ではなく、質。
制度は「道具」です。使い方を間違えれば、形だけの「共生社会」になります。正しく使えば、企業の競争力を高め、障害者が活躍できる社会を実現できます。
私は、福祉ではなく「経営戦略」としての障害者雇用を提案しています。制度と現場の”すき間”を埋め、未来に耐える仕組みを一緒に作りましょう。
正しさよりも、「未来に耐えるかどうか」。それが、私の最上位の判断基準です。
もしこの記事を読んで「相談してみたい」と思われた方は、ぜひお気軽にご連絡ください。本当の意味での「共生」を、一緒に実現しましょう。
参考記事:https://www.komei.or.jp/komeinews/p506091/
動画も公開しています。
企業の「困った」を解決!障害者雇用サポート塾
https://youtube.com/channel/UC4CPSnfSxvaVCEA902K9gfQ?si=NCauCnBZAPc7U-Fh

